相続不動産相談所~高齢で必要書類の作成が困難なときはどうすればいい?~|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2023.02.27

相続不動産相談所~高齢で必要書類の作成が困難なときはどうすればいい?~

相続不動産相談所~高齢で必要書類の作成が困難なときはどうすればいい?~
信託登記で受託者が代行可能に

 神奈川県横浜市に事務所を構える相続専門のA税理士から「信託を活用した面白い相続事例がある」という連絡を受けて取材してきました。電話で先に概要だけ聞いたところ、県内にお住いの高齢な不動産オーナーが相続対策をする際に、長女を受託者にして土地を信託登記したということでした。具体的な内容とともに、ピイントを解説します。

 横内輝夫さん(仮名・82)は、事業で成功したお父様から受け継いだ土地を、川崎市内に所有していました。輝夫さん自身、82歳と高齢なため、そろそろ自らの資産について総合的に相続対策を行うために、先述のA税理士のもとに相談に訪れたそうです。

「お話を伺ったところ、国道沿いに400坪の広さの土地をお持ちとのことでした。もともと畑として別の方に貸していたそうですが、その方が高齢を機に畑を辞めて土地を返却してきたため、横内さんの方でアパートを2棟新築することを検討していました」

 更地にアパートを新築するという手法は、相続対策のいわば王道です。更地のままにしておくよりも、アパートを建ててしまった方が相続税評価額は低くなりますし、さらに建物を新築する際に金融機関などから借りたお金は、負債額として評価額から控除されるからです。相談を受けた税理士も、それが一番良い方法だろうと考えました。しかし、思わぬ事態が起こりました。
 横内さんは特に認知症の症状はなかったものの、金融機関から資金を借り入れる際に提出しなければならないおよそ20枚にも及ぶ書類に必要事項を記入するのが困難でした。家族の代筆でもOKというのなら問題ありませんが、この書類の手続きは、土地所有者本人が行わなわなければなりません。成年後見人でも代行はできません。
 話を聞いたA税理士は、土地を、地主さんの娘さんを受託者とする信託登記するという方法を提案しました。

「実は過去に似たような事例を手掛けたことがありました。信託の受託者は成年後見人よりも裁量が大きく、管理を任されている財産の売買なども実行できる権限があります。この計画に必要な借り入れの際の書類記入も、信託受託者であれば問題なく行うことができます」
 ただ、法律上問題なくても、金融機関は「前例がないことだから」と慎重で、手続きはすんなりとは進みませんでした。しかし、A税理士が根気よく説明した甲斐あって、約2か月かかったものの、なんとか融資が決定しました。
 最終的に、横内さんは所有者の自筆が必要だった口座開設用の書類3枚を記入したのみで、残りはすべて受託者となった娘さんが代筆しました。
 融資実行から8カ月後、アパートは無事に完成。入居者も順調に決まり、1月も経たないうちに全戸満室になったそうです。横内さんはアパートの完成から1年後、83歳の誕生日を迎えた3日後にお亡くなりになりました。
 信託は資産家所有者は心身の健康でなく、資産管理の際に必要な手続きができない状態だったとしても、その時に備えた対策が取られていなければ、所有者が生きている限り、誰も何もできなくなってしまうのです。お手持ちの不動産についてのご相談は、お近くの全国優良リフォーム会員まで。