真説 賃貸業界史 第45回「2007年、更新料の有効性を巡る裁判が京都で勃発」|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2021.12.27

真説 賃貸業界史 第45回「2007年、更新料の有効性を巡る裁判が京都で勃発」

真説 賃貸業界史 第45回「2007年、更新料の有効性を巡る裁判が京都で勃発」
借主と貸主の弁護団が4年にわたり全面戦争

 一般消費者の中には、賃貸の商慣習は日本全国、どこでも同じだと思われている方が多くいらっしゃいます。しかし、実際は地域により異なる商習慣があり、過去にはその在り方を巡って裁判になったものもありました。今回は、賃貸業界に激震を走らせた更新料裁判について見ていきたいと思います。

 -更新料-それは、同じ物件に継続して住み続ける場合に、定期的に入居者がオーナーに対して支払う一時金を指します。

「私は長年、アパートで暮らしているけれど、そんなもの1円だって払ったことはないよ」

中にはこういう方もいらっしゃるでしょう。それもそのはずで、実は更新料は地域的商習慣の一つで、徴収するエリアと徴収しないエリアがあります。徴収するエリアとして知られていているのは関東の一都三県と北関東全域、北陸四県、京都、滋賀などです。同じ関西でも、京都と滋賀では更新料があるのに、大阪や奈良、兵庫などでは更新料はありません。賃貸生活が長い人でも、知っている人と知らない人がいるのはそのためです。例えば大阪から東京に引っ越してその存在を知って驚いたという方も多いのではないでしょうか?
 因みに、更新の期間は2年というのが一般的ですが、料率は地域や物件によってマチマチです。1カ月分というケースもれば、3カ月分というケースもあります。一概には言えませんが、人気のエリアほど、料率は高い傾向にあるようです。
 さて、そんな特殊な商習慣である更新料を巡って、2007年に賃貸業界を揺るがしかねない大事件が起こりました。いわゆる「更新料裁判」です。
 訴訟は、過去にも賃貸に関する商習慣を巡って何度も貸主側に対して訴訟を起こしている京都敷金・保証金弁護団(団長・野々山宏弁護士)の支援を受けた京都市北区の会社員でした。その根拠は、「消費者の利益を一方的に害する条項は消費者契約法により無効」というもので、過去5年分の更新料50万円の返還を求めました。
 言うまでもなく、貸主側はこれに徹底抵交戦の構えを見せました。「賃貸事業の根幹を揺るがしかねない由々しき事態」として、管理会社で組織される(財)日本賃貸住宅管理協会京都支部も支援に乗り出し、京都の弁護士10人から成る「貸主更新料弁護団」も結成されました。京都の一会社員が起こした裁判は、ここから京都全体、しいては賃貸業界全体を巻き込んだ全面戦争へと発展していきました。
 貸主側弁護団の田中伸弁護士は「消費者保護法の拡大解釈であり、借主ばかりの保護が強調され過ぎている。更新料は、あくまでも賃料を補充するためのものだ」として、更新料の正当性を訴えました。当時のことをよく知る関係者は、

「更新料を徴収することは入居契約を締結した際に合意してもらっていることで、それを後になってやっぱり返せと言うのはおかしいだろうと主張したわけです。確かにそんなことがまかり通るのであれば、契約そのものが成り立たなくなる。貸主側の主張はきちんと筋が通っていると感じました」

と振り返る。
 しかし、貸主側の優勢で進むと思われたこの裁判は、意外にも大苦戦を強いられました。同時期に起こされた他の裁判も含め、事案によって大阪高裁の判断は分かれ、よだんを許さない状況が続きました。結果、更新料が有効か無効かの判断は、お最高裁の判断に委ねられることになりました。前述の関係者は

「裁判が始まった当初は、まさかここまで事態が二転三転するとは、関係者は誰も思っていなかったのでしょうか。正直なところ、判決文が読み上げられるまで、どちらに転ぶか分かりませんでした」

 2011年7月、4年にも及ぶ更新料裁判についに決着がつきました。結果は、貸主側の勝訴でした。最高裁は更新料の法的性質について、

①更新料は賃料とともに貸主の事業の収益の一部を構成するものである
②その支払いにより、借主は円満に物件の使用を継続することができる
③更新料は賃料の補充、もしくは一部の前払いと認められる

とし、その額が賃料に対してあまりにも高額でない限り、有効であるとの判断を下したのです。
 仮に最高裁の判断が逆になっていたらどんな事態が行っていたでしょうか。更新料が賃料の補充、もしく一部の前払いである以上、それを徴収できなくなれば事業としては大きな痛手です。当然、貸主は賃料を値上げするなどして、別の形でその分を補填しなければならなくなります。家賃の値上げと空室リスクは表裏一体です。おそらく、ほとんどの方は値上げには踏み切ることができず、失った更新料を自ら被ることになったのではないでしょうか。
 何はともあれ、更新料を巡る一連の騒動は、これで一区切りつきました。賃貸業界を巻き込んだ大事件は、貸主側の勝利で幕を閉じました。