賃貸割合を巡る両者の主張、認められたのはどっち?
「いろいろな資料を用意しなければならなくて大変だったけれど、相続税も収めたし、これでようやく落ち着ける」
相続の手続きは非常に大変です。専門家に任せていても、資料の用意や相続人同士での話し合いなど、相続人自身でやらなければならないことも山のようにあります。一度でも相続を経験したという方は、相続税を収めたときに「ようやく肩の荷が下りた」とほっとしたのではないでしょうか?しかし、安心してはいけません。というのも、相続税申告後に改めて税務調査が入ることがあるからです。今回は相続手続き完了後に税務署と申告書の認識の違いについて話し合った事例をご紹介します。
2016年8月某日、愛知県名古屋市で相続税を専門的に手掛けているS 税理士事務所に、前年にお父様が他界に伴いその遺産を相続したというAさんが訪ねてきました。困り顔のAさんはS税理士との面談で、事務所を訪ねてきた理由について次のように言ったそうです。
「実は相続の手続きは長年懇意にしていたY税理士にお願いしました。しかし、手続きが済んで相続税を収めた後に、税務調査から申請書に不備があるからという理由で追徴課税されてしまいました。もちろん言われた通りに収めたのですが、どうにも納得がいかなくて・・・。それで知り合いに相談したところ、こちらを教えていただきました。申告書に本当に不備があったのか、改めて見ていただけませんか?」
普通であれば、すでに税務調査まで終わっているので、ここからさらに申告内容を見直したところで結果が変わる可能性はほとんどありません。しかし、100%ないかと言えば実はそうではありません。意外なことに、相続申告書を細かく見直してみると、意外な盲点が見つかることが稀にあります。それほど相続というものは案件によって内容が異なり、色々なケースを想定しなければならないものなのです。豊富な知識や経験が必要になるので、馴れていない方が下手に手を出すと必ず失敗します。S税理士はAさんから資料を受け取ると、数日かけて内容を吟味。その結果、気になる点を見つけました。
Aさんの相続税申告書の中で気になったのは、貸家建付地に不動産評価に関する箇所でした。“貸家建付地”という言葉を初めて聞いたという方のために補足しておくと、これは賃貸用の建物が建っている土地を指します。ご自身の土地に相続税対策でアパートやマンションなどの賃貸住宅を建てている場合、その土地は“貸家建付地”となります。この土地に対する評価の計算方法は、
自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=評価額
となります。借地権割合とは、対象となる土地の中に含まれている借地権の割合を示すもので、土地ごとに異なります。一方、借家権割合とは、対象となる土地に建っている建物にどれだけの借家権が存在するかを示すもので、一律30%と定められています。また、賃貸割合とは、賃貸されている割合を示すもので、いわば全戸を賃貸している場合は100%、一部の場合はそれに応じた割合で計算します。
さて、話を戻すと当初Aさんは、相続税申告書において賃貸割合を100%で申告していました。理由は、貸家建付地に建っていたのが戸建住宅だったからです。一戸建てである以上、賃貸割合は100%以外ありえません。つまり、最初の申告自体決して誤った判断ではなかったということです。ところが税務署は、これを50%とするように指導してきたそうです。その結果、納税額が変わってしまったというわけです。Aさんは言われるがまま、改めて相続税を納め直しました。
なぜ、Aさんのケースでは申告した賃貸割合を修正するようにとの指摘がなされたのでしょうか?原因は対象の土地を、被相続人と相続人が共同で所有していたこと対する見解の違いにありました。
(税務署の見解)
①対象となる土地は被相続人が所有
②その土地に建つ建物の所有権は、被相続人と相続人がそれぞれ2分の1ずつ
③貸家建付地と認められるのは、土地と建物の所有者が一致している部分のみ
結果、一戸建ての貸家割合は、Aさんが所有権を持つ2分1、つまり50%を判断されたのです。当然ながら、この指摘には誤解があります。そこでY税理事務所も以下のような主張を行いました。
(Y税理士事務所の主張)
①土地も建物も、被相続人と相続人の共有持ち分である
②民法第249条に従い、各共有者は共有部の全部について、その持ち分に応じた使用をすることができる
②について少し補足しておきます。Aさんの場合、土地と建物について所有権は確かに2分の1ずつです。しかし、Aさん個人で見た場合、所有している土地に建っている建物の所有権部分はすべて賃貸しているわけですから、賃貸割合は100%と考えることもできます。ここが判断の分かれ目でした。
結論から言うと、今回の事例では最終的にAさんとS税理士事務所側の主張が全面的に認められることになりました。その結果、追加で収めた相続税は還付され、今度こそ本当に、相続手続きが完了しました。
解釈の違いと言えばそれまでですが、相続税申告においては何をどう考えるべきか、色々なロジックを駆使しなければなりません。万が一、税務署側に不備を指摘された際に、適切な反論ができないと、本来必要のない額の税金を納めることになる可能性もあります。相続税還付には期限があります。亡くなってから5年10カ月を過ぎてしまうと、例え反論できる要素が見つかったとしても更正請求を行うことはできません。すでに相続税の申告を済まされた方も、これから申告する方も、相続に関してお悩みをお持ちの方は、お近くの相続不動産実務主任者にご相談ください。
「いろいろな資料を用意しなければならなくて大変だったけれど、相続税も収めたし、これでようやく落ち着ける」
相続の手続きは非常に大変です。専門家に任せていても、資料の用意や相続人同士での話し合いなど、相続人自身でやらなければならないことも山のようにあります。一度でも相続を経験したという方は、相続税を収めたときに「ようやく肩の荷が下りた」とほっとしたのではないでしょうか?しかし、安心してはいけません。というのも、相続税申告後に改めて税務調査が入ることがあるからです。今回は相続手続き完了後に税務署と申告書の認識の違いについて話し合った事例をご紹介します。
2016年8月某日、愛知県名古屋市で相続税を専門的に手掛けているS 税理士事務所に、前年にお父様が他界に伴いその遺産を相続したというAさんが訪ねてきました。困り顔のAさんはS税理士との面談で、事務所を訪ねてきた理由について次のように言ったそうです。
「実は相続の手続きは長年懇意にしていたY税理士にお願いしました。しかし、手続きが済んで相続税を収めた後に、税務調査から申請書に不備があるからという理由で追徴課税されてしまいました。もちろん言われた通りに収めたのですが、どうにも納得がいかなくて・・・。それで知り合いに相談したところ、こちらを教えていただきました。申告書に本当に不備があったのか、改めて見ていただけませんか?」
普通であれば、すでに税務調査まで終わっているので、ここからさらに申告内容を見直したところで結果が変わる可能性はほとんどありません。しかし、100%ないかと言えば実はそうではありません。意外なことに、相続申告書を細かく見直してみると、意外な盲点が見つかることが稀にあります。それほど相続というものは案件によって内容が異なり、色々なケースを想定しなければならないものなのです。豊富な知識や経験が必要になるので、馴れていない方が下手に手を出すと必ず失敗します。S税理士はAさんから資料を受け取ると、数日かけて内容を吟味。その結果、気になる点を見つけました。
Aさんの相続税申告書の中で気になったのは、貸家建付地に不動産評価に関する箇所でした。“貸家建付地”という言葉を初めて聞いたという方のために補足しておくと、これは賃貸用の建物が建っている土地を指します。ご自身の土地に相続税対策でアパートやマンションなどの賃貸住宅を建てている場合、その土地は“貸家建付地”となります。この土地に対する評価の計算方法は、
自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=評価額
となります。借地権割合とは、対象となる土地の中に含まれている借地権の割合を示すもので、土地ごとに異なります。一方、借家権割合とは、対象となる土地に建っている建物にどれだけの借家権が存在するかを示すもので、一律30%と定められています。また、賃貸割合とは、賃貸されている割合を示すもので、いわば全戸を賃貸している場合は100%、一部の場合はそれに応じた割合で計算します。
さて、話を戻すと当初Aさんは、相続税申告書において賃貸割合を100%で申告していました。理由は、貸家建付地に建っていたのが戸建住宅だったからです。一戸建てである以上、賃貸割合は100%以外ありえません。つまり、最初の申告自体決して誤った判断ではなかったということです。ところが税務署は、これを50%とするように指導してきたそうです。その結果、納税額が変わってしまったというわけです。Aさんは言われるがまま、改めて相続税を納め直しました。
なぜ、Aさんのケースでは申告した賃貸割合を修正するようにとの指摘がなされたのでしょうか?原因は対象の土地を、被相続人と相続人が共同で所有していたこと対する見解の違いにありました。
(税務署の見解)
①対象となる土地は被相続人が所有
②その土地に建つ建物の所有権は、被相続人と相続人がそれぞれ2分の1ずつ
③貸家建付地と認められるのは、土地と建物の所有者が一致している部分のみ
結果、一戸建ての貸家割合は、Aさんが所有権を持つ2分1、つまり50%を判断されたのです。当然ながら、この指摘には誤解があります。そこでY税理事務所も以下のような主張を行いました。
(Y税理士事務所の主張)
①土地も建物も、被相続人と相続人の共有持ち分である
②民法第249条に従い、各共有者は共有部の全部について、その持ち分に応じた使用をすることができる
②について少し補足しておきます。Aさんの場合、土地と建物について所有権は確かに2分の1ずつです。しかし、Aさん個人で見た場合、所有している土地に建っている建物の所有権部分はすべて賃貸しているわけですから、賃貸割合は100%と考えることもできます。ここが判断の分かれ目でした。
結論から言うと、今回の事例では最終的にAさんとS税理士事務所側の主張が全面的に認められることになりました。その結果、追加で収めた相続税は還付され、今度こそ本当に、相続手続きが完了しました。
解釈の違いと言えばそれまでですが、相続税申告においては何をどう考えるべきか、色々なロジックを駆使しなければなりません。万が一、税務署側に不備を指摘された際に、適切な反論ができないと、本来必要のない額の税金を納めることになる可能性もあります。相続税還付には期限があります。亡くなってから5年10カ月を過ぎてしまうと、例え反論できる要素が見つかったとしても更正請求を行うことはできません。すでに相続税の申告を済まされた方も、これから申告する方も、相続に関してお悩みをお持ちの方は、お近くの相続不動産実務主任者にご相談ください。