相続不動産相談所~相続時精算課税制度で子どもに生前贈与!~|相続|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2023.05.15

相続不動産相談所~相続時精算課税制度で子どもに生前贈与!~

相続不動産相談所~相続時精算課税制度で子どもに生前贈与!~
わずか20万円の贈与税で資産の移動に成功

相続税は、手続きを任せる税理士次第で納税額に大きな差が出ることがあります。中でも不動産資産が絡むケースは金額が大きくなる傾向にあるだけに、相続に精通した税理士の存在が不可欠です。今回も相続専門の税理士による事例を取材しました。

京都府京都市に事務所を構えるS税理士は、2000年の事務所開設以来、相続案件を専門的に手掛けています。これまでに手掛けた案件は150件以上、中には億を超える相続税還付を受けたケースもあったそうです。
 今回取材したのは、S税理士が2015年に手掛けた香川利一さん(仮名)の事例です。香川さんは現金の他、株式や不動産など、いくつかの相続資産をお持ちでした。将来、相続が発生した際には、かなりの金額を納税しなければならない可能性があったため、奥さんやお子さんのためにも早いうちに準備をしておこうということで、知り合いを通じてS税理士のもとに生前贈与の相談で訪ねてきたそうです。
 財産がある以上、相続は避けて通れません。問題は、相続税額をどうやって少なくするかですが、もっとも簡単なのは可能な限り財産を減らすことです。香川さんのケースでは、所有されていた賃貸マンションをどうにかするか、ということから始まりました。
 最初に考えたのはマンションの売却です。しかし、香川さんのマンションが建っている土地は、祖父、父と受け継がれてきたもので、香川さんとしてはできれば手放したくないと考えていました。S税理士は考えた結果、「相続時精算課税制度」という特別控除を利用して、将来発生する相続税を減額することにしました。
 ここで「相続時精算課税制度」について簡単に解説しておきます。これは、60歳以上の祖父母や親から20歳以上の子や孫に財産を贈与する場合、2500万円までは贈与税がかからない」という特例です。S税理士はこの制度を利用して、収益不動産から上がる賃料収入を香川さんご本人ではなく、お子さんの財産になるようにしました。仮に2500万円の枠を超えてしまう場合は、土地と建物を切り離し、建物のみを贈与するようにします。建物贈与の評価額は固定資産税評価によって算出されるため、ほとんどの場合、2500万円以内に収めることができます。贈与後に建物の名義人を、ご本人から子や孫に変更しておけば手続きは完了です。
 

(相続時精算課税制度)

-メリット-
①2500万円までは贈与税が発生しない
②収益不動産から発生する将来財産を、あらかじめ子や孫に移すことができる
③不動産や株などが将来的に値上がりした場合、値上がり分の相続税を節税することができる
④贈与により「争族」を防ぐことができる

-デメリット-
①土地の評価が貸家建付地から自由地になるため、収益不動産から上がる賃料収入よりも相続税の増加分が多くなってしまうことがある
②年間の贈与額が110万円以下であれば無税となる暦年贈与が使えない
③贈与額が年間100万円以下の場合は基本的に申告手続きが不要だが、相続時精算課税制度を利用する贈与額が110万円以下であっても申告手続きが必要
④一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%減額できる小規模宅地等の特例が適用できない

 以上を踏まえて、S税理は香川さんに「相続時精算課税制度」を利用した相続対策を実施しました。

土地建物の相続税評価:2600万円
家賃収入:350万円/年
相続時精算課税による贈与税額:2600万円-2500万円×20%=20万円

結果、香川さんは20万円の贈与税を支払うことで、2600万円の不動産資産と年間350万円の賃料収入をお子さんに移すことに成功しました。対策実施から7年が経過した現在、香川さんは2450万円の節税効果を得たことになります。

 相続は千差万別で、一つとして同じものはないと言われています。それだけに今回ご紹介した方法がそのまま使えるとは限りませんが、知っていればどこかで役立つかもしれません。相続にお悩みの方は、お近くの相続不動産実務主任者に相談してみてはいかがでしょうか。