「近くに現場があるから」はターゲットを見つけるための口実
京都で10月、不要なリフォーム契約をして現金を騙し取ったとして、詐欺と特定商取引法違反の疑いで、大阪市内にある会社に勤める男性6名が逮捕されました。被害に遭ったのは、大阪府東大阪市に住む男性会社員や、京都市在住の83歳の女性ら6名。本来は必要のない自宅屋根裏の補強工事や床下の防湿工事を契約させられ、総額640万円を騙し取られました。
こうした詐欺事件は年々増えています。特に高齢女性の被害はとりわけ多く、警察も注意喚起を促しています。
「水漏れしたような跡が写真にはっきり写っていたため、すっかり騙されてしまいました。被害額は30万円です」
こう話すのは、横浜市内に住む高岡静江さん(76)。ご主人はすでに他界していて、一人息子の忠さん(50)は、仕事の関係で、家族とともに福岡にいるため、静江さんはお一人で築45年の木造一戸建てに住んでおられました。
そんな静江さんが悪質なリフォーム詐欺に遭われたのは2年前のこと。買い物から帰ってくると、作業着を着た男性が、ちょうど静江さん宅の呼び鈴を鳴らしているところに出くわしました。
「うちに何か御用ですか?」
静江さんが声をかけると男性は、
「先日の大雨で雨漏り被害に遭われたお宅がこの近くにあって、修理に来ています。ちょっと時間が空いたので、他にも被害に遭われたお宅はないかと、近辺を見て回っていたところです」
と言いました。
「あら、そうなの?どちらのお宅かしら?」
静江さんが訪ねると、
「申し訳ありません。そうした情報は、勝手にベラベラ喋ることができない決まりになっているんです。誰だって自分の家が雨漏りが起こるほど傷んでいるとは思われたくないですからね」
と男性は答えました。なるほど、確かにそうだなと思った静江さんは、
「でも、ご近所さんはともかく、うちは雨漏りはありませんでしたよ。お忙しいところわざわざ見回りに来ていただいてありがとうございます」
と、丁寧な言葉をかけて引き取ってもらおうとしたところ、
「雨漏りは、いきなり起こるものではありません。必ず事前に現れます。我々はその兆候を見つけるために、屋根裏の無料点検をして回っているんです。何もなければそれで終わり、わずかでも兆候が見つかった場合は、即座に対応して問題箇所を修理します。修理が必要な場合は費用が発生しますが、何もなければお金はかかりません。30分ほどで終わるので、点検だけでもさせて頂けませんか?」
と返してきました。普段から、知らない人を家に上げないようにと息子さんから言われていた静江さんでしたが、男性が非常に紳士的な立ち振る舞いで、言葉遣いも丁寧だったことから、「点検だけなら問題ないわね」と思い、屋根裏の点検をしてもらうことにしました。
男性は静江さんにお礼を言うと、早速家の中に入り、馴れた手つきで天井の板を外し、屋根裏に入っていきました。約束通り、30分ほどして出てくると、
「結構、古い家のようですが、その割に痛みは少ないように思います。ただ1箇所だけ、気になる部分が見つかりました」
と神妙な面持ちで言いました。そして男性は、デジタルカメラで撮影した数枚の画像を静江さんに見せました。そこには、水で濡れたようなシミが付いた柱が映っていました。男性が言うには、それは雨漏りの跡で、今はまだ症状が軽いため、屋根裏の一部が濡れる程度で済んでいるものの、放っておくとどんどんひどくなって、やがて部屋の中にまで水が滴り落ちてくるようになるということでした。
「まさかうちが・・・」と思った静江さんでしたが、どうしたら良いのかと男性に尋ねました。
「まだ初期段階なのですぐに直せますよ。近くに現場が終わり次第、こちらに作業員を回しましょう。ついでですから、費用もお安くできます」
「すぐに直る」という言葉に安堵した静江さんは、そのまま修理を頼んでしまいました。男性はいったん引き上げ、1時間ほどして作業員と思わしきスタッフを連れて、再び静江さん宅にやってきました。
「修理は1時間から1時間30分ほどで終わると思います。こちらが請求書になります。本来であれば40万円ほどかかるのですが、先程も申し上げたように、近所に別の現場があったついでで移動費用がかからないので、すこしお値引きさせて頂いて30万円にしておきました。
請求額を聞いた静江さんは「こんなにかかるのか」と感じながらも、もう目の前に作業員もいてあとにひけないため、提示された金額を承諾し、そのまま作業をお願いしました。結局、作業は1時間も経たないうちに終わり、男性らは「明日の午後に代金の回収に来ます」と言い残して静江さん宅を後にしました。
わずか3時間ほどの間にすべてが片付いてしまったことに、何とも言えない不安を感じた静江さんは、息子さんに電話で相談しようかと悩みました。しかし、タイミング悪く、息子さんはこのとき、仕事で1週間ほど海外に出張して、日本にはいませんでした。結局、静江さんは「わざわざ海外にまで電話をすることはないか」と考え直し、翌日朝一に銀行で修理代金分の30万円を引き出し、午後に男性に支払いました。
これが詐欺だと発覚したのは、それから2週間が経ったときでした。海外出張から戻った息子さんが、今度は東京の本社に用事あるということで、静江さん宅にも顔を出したのです。一連の出来事を静江さんに聞いた息子さんは、
「リフォーム会社に勤めている同級生がいるから、本当に雨漏りがあったのか一度、屋根裏の点検をしてもらおう。事情を話せばすぐにきてくれるはずだ」
その日のうちにやってきた同級生は、すぎに屋根裏を確認。1時間ほどかけて念入りに点検を行ったところ、思いがけないことを口にしました。
「細部まで点検しましたが、雨漏りがあった、もしくはそれを直したような形跡はありませんでした。そもそも雨漏りはなく、修理したと偽ってお金を騙し取ったのかもしれませんね」
これを聞いた静江さんは、
「そんなはずはありません。だって写真で雨漏りの跡も確認しましたし・・・」
「お母さん、屋根裏の写真を見せられたところで、それがご自宅のものかどうかは判断できませんよね?違う家の写真で騙されたのかもしれません」
後になってわかったことですが、近所には雨漏り被害に遭った家は一軒もなかったそうです。「近所で工事をしているついで」というのは、ターゲットを見つけるための単なる口実でしかなかったわけです。みなさんも、こうした悪質なリフォーム詐欺に遭わないために、注意して下さい。リフォームに関するトラブルのご相談は、お近くのリフォーム取引販売士まで。
京都で10月、不要なリフォーム契約をして現金を騙し取ったとして、詐欺と特定商取引法違反の疑いで、大阪市内にある会社に勤める男性6名が逮捕されました。被害に遭ったのは、大阪府東大阪市に住む男性会社員や、京都市在住の83歳の女性ら6名。本来は必要のない自宅屋根裏の補強工事や床下の防湿工事を契約させられ、総額640万円を騙し取られました。
こうした詐欺事件は年々増えています。特に高齢女性の被害はとりわけ多く、警察も注意喚起を促しています。
「水漏れしたような跡が写真にはっきり写っていたため、すっかり騙されてしまいました。被害額は30万円です」
こう話すのは、横浜市内に住む高岡静江さん(76)。ご主人はすでに他界していて、一人息子の忠さん(50)は、仕事の関係で、家族とともに福岡にいるため、静江さんはお一人で築45年の木造一戸建てに住んでおられました。
そんな静江さんが悪質なリフォーム詐欺に遭われたのは2年前のこと。買い物から帰ってくると、作業着を着た男性が、ちょうど静江さん宅の呼び鈴を鳴らしているところに出くわしました。
「うちに何か御用ですか?」
静江さんが声をかけると男性は、
「先日の大雨で雨漏り被害に遭われたお宅がこの近くにあって、修理に来ています。ちょっと時間が空いたので、他にも被害に遭われたお宅はないかと、近辺を見て回っていたところです」
と言いました。
「あら、そうなの?どちらのお宅かしら?」
静江さんが訪ねると、
「申し訳ありません。そうした情報は、勝手にベラベラ喋ることができない決まりになっているんです。誰だって自分の家が雨漏りが起こるほど傷んでいるとは思われたくないですからね」
と男性は答えました。なるほど、確かにそうだなと思った静江さんは、
「でも、ご近所さんはともかく、うちは雨漏りはありませんでしたよ。お忙しいところわざわざ見回りに来ていただいてありがとうございます」
と、丁寧な言葉をかけて引き取ってもらおうとしたところ、
「雨漏りは、いきなり起こるものではありません。必ず事前に現れます。我々はその兆候を見つけるために、屋根裏の無料点検をして回っているんです。何もなければそれで終わり、わずかでも兆候が見つかった場合は、即座に対応して問題箇所を修理します。修理が必要な場合は費用が発生しますが、何もなければお金はかかりません。30分ほどで終わるので、点検だけでもさせて頂けませんか?」
と返してきました。普段から、知らない人を家に上げないようにと息子さんから言われていた静江さんでしたが、男性が非常に紳士的な立ち振る舞いで、言葉遣いも丁寧だったことから、「点検だけなら問題ないわね」と思い、屋根裏の点検をしてもらうことにしました。
男性は静江さんにお礼を言うと、早速家の中に入り、馴れた手つきで天井の板を外し、屋根裏に入っていきました。約束通り、30分ほどして出てくると、
「結構、古い家のようですが、その割に痛みは少ないように思います。ただ1箇所だけ、気になる部分が見つかりました」
と神妙な面持ちで言いました。そして男性は、デジタルカメラで撮影した数枚の画像を静江さんに見せました。そこには、水で濡れたようなシミが付いた柱が映っていました。男性が言うには、それは雨漏りの跡で、今はまだ症状が軽いため、屋根裏の一部が濡れる程度で済んでいるものの、放っておくとどんどんひどくなって、やがて部屋の中にまで水が滴り落ちてくるようになるということでした。
「まさかうちが・・・」と思った静江さんでしたが、どうしたら良いのかと男性に尋ねました。
「まだ初期段階なのですぐに直せますよ。近くに現場が終わり次第、こちらに作業員を回しましょう。ついでですから、費用もお安くできます」
「すぐに直る」という言葉に安堵した静江さんは、そのまま修理を頼んでしまいました。男性はいったん引き上げ、1時間ほどして作業員と思わしきスタッフを連れて、再び静江さん宅にやってきました。
「修理は1時間から1時間30分ほどで終わると思います。こちらが請求書になります。本来であれば40万円ほどかかるのですが、先程も申し上げたように、近所に別の現場があったついでで移動費用がかからないので、すこしお値引きさせて頂いて30万円にしておきました。
請求額を聞いた静江さんは「こんなにかかるのか」と感じながらも、もう目の前に作業員もいてあとにひけないため、提示された金額を承諾し、そのまま作業をお願いしました。結局、作業は1時間も経たないうちに終わり、男性らは「明日の午後に代金の回収に来ます」と言い残して静江さん宅を後にしました。
わずか3時間ほどの間にすべてが片付いてしまったことに、何とも言えない不安を感じた静江さんは、息子さんに電話で相談しようかと悩みました。しかし、タイミング悪く、息子さんはこのとき、仕事で1週間ほど海外に出張して、日本にはいませんでした。結局、静江さんは「わざわざ海外にまで電話をすることはないか」と考え直し、翌日朝一に銀行で修理代金分の30万円を引き出し、午後に男性に支払いました。
これが詐欺だと発覚したのは、それから2週間が経ったときでした。海外出張から戻った息子さんが、今度は東京の本社に用事あるということで、静江さん宅にも顔を出したのです。一連の出来事を静江さんに聞いた息子さんは、
「リフォーム会社に勤めている同級生がいるから、本当に雨漏りがあったのか一度、屋根裏の点検をしてもらおう。事情を話せばすぐにきてくれるはずだ」
その日のうちにやってきた同級生は、すぎに屋根裏を確認。1時間ほどかけて念入りに点検を行ったところ、思いがけないことを口にしました。
「細部まで点検しましたが、雨漏りがあった、もしくはそれを直したような形跡はありませんでした。そもそも雨漏りはなく、修理したと偽ってお金を騙し取ったのかもしれませんね」
これを聞いた静江さんは、
「そんなはずはありません。だって写真で雨漏りの跡も確認しましたし・・・」
「お母さん、屋根裏の写真を見せられたところで、それがご自宅のものかどうかは判断できませんよね?違う家の写真で騙されたのかもしれません」
後になってわかったことですが、近所には雨漏り被害に遭った家は一軒もなかったそうです。「近所で工事をしているついで」というのは、ターゲットを見つけるための単なる口実でしかなかったわけです。みなさんも、こうした悪質なリフォーム詐欺に遭わないために、注意して下さい。リフォームに関するトラブルのご相談は、お近くのリフォーム取引販売士まで。