真説 賃貸業界史 第17回「M&A市場で高い人気を誇る管理会社」|不動産|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2019.06.17

真説 賃貸業界史 第17回「M&A市場で高い人気を誇る管理会社」

真説 賃貸業界史 第17回「M&A市場で高い人気を誇る管理会社」
安定収入が最大の魅力

賃貸管理業は、毎月安定した売り上げがあるだけでなく、原状回復やリフォーム、入居者を対象にした付帯商品の販売などを通じて副収益を得ることができることから、M&A市場で常に高い人気を誇る。同業に限らず、欲しがる会社は多い。今回は有力管理会社によるM&A事例を中心に、歴史をまとめた。

「買収の提案ができそうな管理会社はないか」
「そろそろリアタイアを検討している社長はいないか」

M&Aに詳しい専門家によると、賃貸管理会社は今、M&A市場で最も人気のある銘柄の一つだという。人気の秘密は、安定的な管理料収入にある。一戸当たりの売上は家賃の5%と決して大きいわけではないが、管理戸数を増やせば増やすほど安定収入は増える。例えば一部屋8万円の物件を1000戸管理しているとした場合、年間の売上は4800万円にもなる。管理料以外にも、鍵の交換や家賃債務保証の販売代行、原状回復など、付帯ビジネスは多い。景気の影響を受けにくいため、本業とは別の安定基盤にもしやすい。入居募集や入居者管理、退去の立ち会いなど、手間のかかる仕事はあるものの、それを差し引いても十分な魅力がある。多くの企業が喉から手が出るほど欲しがるのも頷ける。
M&A市場で高い人気を誇る管理会社だが、売りに出される理由はさまざまだ。もっとも多いのは、経営者が高齢化などを理由に会社を丸ごと譲渡するケースだ。後継者がいれば話は別だが、そうでない場合は会社を継続・発展させることができそうな引き取り先を探す。もっとも大きな事案として挙がるのは、2016年に行われた東急不動産HDによる学生向けマンション最大手、学生情報センター(以下学情)の買収だ。当時の管理戸数は、HD傘下の東急住宅リースが約7万9000戸、学情が約8万8000戸。数の上では小が大を傘下に収め、グループの総管理戸数は一気に業界10位にまで上昇した。
4年前には、埼玉県で当時約1200戸を管理していた大興グループが、創業社長の引退を機に、社宅管理や企業の福利厚生を手掛けるリロ・ホールディングスの傘下に入った。同グループは管理会社のM&Aに最も積極的な企業の一つで、この他にも東急東横線沿線に強い東都やベスタスグループ、福岡県下で約5800戸を管理していたルームグループ、宮城県仙台市で約1800戸を管理していたナカミチなどを買収した実績を持つ。さらに昨年7月には、東京都国分寺市のハナザワホームズを、東都が株式を取得する形で傘下に収めた。
新興不動産会社、ANBITIONもM&Aには積極的だ。また、2015年には横浜エリア進出の足掛かりにすべく、地元で当時1200戸を管理していたVALORの株式を取得。さらに2年前には投資用デザイナーズマンションの開発や賃貸管理などを手掛けるヴェリタス・インベストメントの発行済み株式の一部を取得して子会社化し、不動産事業全体のシナジー効果を高めるとともに、賃貸管理戸数を増やして収益基盤を強化した。
「レーベン」や「ネベル」などの分譲マンションで知られるタカラレーベンは、愛媛県の有力管理会社の一つだった住宅情報館を、2015年にM&Aした。同社の当時の管理戸数は約2200戸。一線を退きたいとする創業者の思惑と、安定した収益基盤を築くとともに中国地方進出への足掛かりを模索していたタカラレーベンの狙いが合致したことで実現に至ったと言われている。
大手管理会社によるM&Aでは、APAMANが昨年発表した傘下のApaman Propertyによるプレストサービスの買収も話題になった。
本業の業績不振や破綻に伴う管理部門の売却も多い。例えば中国地方を基盤に、首都圏や関西圏などで一棟売り収益マンションの開発・販売を手掛けていたキョーエイ産業は2008年に経営破綻。管理部門については、約7000戸を管理していた賃貸管理部門を、サブリース会社大手のアムス・インターナショナルに売却した。
バブル時代を代表する不動産会社、マルコーと管理部門として設立されたマイムは、M&Aによって次々と親会社を変えながら今なお生き残っている管理会社です。マルコーは1991年に経営破綻した後、ダイエーの支援を受けて再建。その後、ベンチャーキャピタルの支援を受けて自社株を買い取ると、社名をダーウィンと改めて一時的に独立。しかし、2年後にインボイスに買収され、社名をインボイスMYMと再び変更。現在は、経営不振に陥ったインボイスから株式を買い取ったアパマンショップホールディングスの子会社として、サブリース事業を行っている。一方のマイムもマルコーととともに親会社を変え、現在はビケンテクノグループでマイムコミュニティとして活動している。
今回取り上げたのは氷山の一角で、水面下では数多くの買収劇が繰り広げられている。社会の高齢化や今後の景気動向によっては、M&A市場における管理会社の存在感は、今後さらに強まっていくかもしれない。