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豆知識

2016.07.01

不動産鑑定士が教える空家と相続

不動産鑑定士が教える空家と相続
不動産鑑定士が教える空家と相続

1.空き家の実態
 総務省「住宅・土地統計調査平成25年度」によると、現在6063万戸の住宅ストックのうち、空家は約820万戸(空き家率13・5%)、すでに住宅ストック数は総世帯(約5240万世帯)に対し16%多くなっています。そして空き家のうち未利用の空き家(その他の住宅)が318万戸あります。それらは①防災・防犯性の低下、②ごみの不法投棄、③景観の悪化等が懸念されており、空き家問題は社会現象になっています。

2.空き家と相続
 今後も増加が予想される空き家ですが、その多くは相続を契機とします。高齢者の持ち家率は高く、相続財産の約41%は不動産で占められています。相続により遺産は相続人に分割されますが、分割協議が整わない場合や売る時期を見極めている場合、売るに売れない場合等にそれらは空き家となります。

3.相続不動産を上手に分ける方法
 他の相続財産と異なり不動産は、『①分けられない』『②価格が特定しづらい』という特徴があります。そのうえ価格が高額なのでしばしば争続の元凶となります。ですが相続税の申告期限内に遺産分割協議が整わないと配偶者減税や小規模宅地の特例等が受けられなくなりますし、不動産自体も維持管理がおろそかになり価値が下がってしまいます。
 では、どうすれば相続不動産を上手に分けることができるでしょうか。
 相続人全員の合意により、不動産を売却しその売却代金を持ち分に応じて分割する方法は、一番わかりやすくフェアな方法です。4月の税制改正による相続空き家の譲渡所得3000万円の特別控除もそれを後押ししています。
 ですが、売却ができない場合には、他の相続人に代償金を支払うことで不動産を取得することができます。

 代償金の算定には右記《図2》の❶〜❹の4つの方法があり、一番多く使われているのは、固定資産税評価額を採用する方法ですが、私は不動産鑑定士による不動産鑑定書の採用をお勧めします。
 なぜなら、相続税の改正による基礎控除額の引き下げにより相続税の申告が必要な相続人の数が増大しました。同じ申告をするのであれば不動産の価格を査定するだけでなく同時に節税対策をしましょう。
 相続税の節税には不動産しかありません。相続財産のうち、有価証券も現預金も数字を動かすことはできません。
 言い換えれば不動産の価格は評価によって変えることができるということです。 そして、それは不動産鑑定士によってのみ成しうるということです。
 例えば税理士の先生や専門のコンサルの方が広大地評価や小規模宅地の適用、分筆、資産の組換、管理会社への移管等、コンサル等を行って相続税対策をされますが、純粋に不動産の価格を下げることはできません。
 なぜなら税理士の先生は路線価評価に縛られているので、そこに判断の余地はありません。評価基準に従って粛々と申告するのみです。自らの判断で不動産を評価できるのは不動産鑑定士のみです。
 不動産の専門家である不動産鑑定士にご相談いただくことが、最善の相続税対策と相続対策であると思います。
松田 嘉代子

プロフィール
不動産鑑定士、有限会社春日不動産鑑定事務所の代表として民間主体の不動産鑑定評価を行う。依頼者は弁護士、税理士、司法書士等の専門士業または金融機関、不動産投資家、不動産業者等、現在、(公社)大阪府不動産鑑定士協会理事、大阪家庭裁判所家事調停委員、参与員、大阪地方裁判所鑑定委員、NPO法人既存住宅・空家プロデュース協会顧問、NPO法人いきいきつながる会理事を務める。