ヤマダ電機はなぜ業績不振に陥ったのか? 経営難の会社をM&Aするも売り上げ拡大に寄与せず|知識・教養|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2018.08.20

ヤマダ電機はなぜ業績不振に陥ったのか? 経営難の会社をM&Aするも売り上げ拡大に寄与せず

ヤマダ電機はなぜ業績不振に陥ったのか? 経営難の会社をM&Aするも売り上げ拡大に寄与せず
膨大な固定費を垂れ流した大型店舗

 家電量販店最大手、ヤマダ電機が業績不振のトンネルから抜け出せない。5月に発表された3月期決算(2017年4月~18年3月)によると、売上高は前期比0.7%増の1兆5739億円、営業利益は33%減の388億円、経常利益は28.3%減の473億円、純利益は13.8%減の298億円。売上高こそかろうじて横ばいを維持したものの、営業利益、経常利益、純利益はいずれも大幅減益という散々な結果だった。
 売り上げ2兆円超、市場シェア30%など、かつては他を寄せ付けない圧倒的な強さを見せつけていた同社が、なぜここまで業績を悪化させることになってしまったのか。それには大きく2つの要因が考えられる。
 一つには、顧客離れが加速度的に進んだことが挙げられる。ヤマダ電機の成長を支えてきたのは、業界ナンバーとも言われた低価格戦略だ。郊外店の広大な売り場を武器に商品を安く大量に仕入れ、「他店より1円でも安く」を合言葉に、ときには強引な値引きも行い、とにかく売って、売って、売りまくった。これが多くの消費者から支持された。
ところがネット通販の台頭により、こうしたやり方が通じなくなった。店舗がないネット業者は、賃料や人件費などの固定費がかからない分、ヤマダ電機よりもさらに安く、しかも営業時間や販売エリアを限定されることもない商品を販売した。

-ヤマダ電機はもう安くない-

そんな声があちこちで聞かれるようになると、顧客はどんどんネット通販に流れた。
また、街の電気店が共同購入の仕組みなどを利用して安く商材を仕入れ、価格競争に参戦してきた影響も大きい。こうなると、本来、強みとしていたはずの郊外大型店は、売り上げが伸びないにもかかわらず、毎月膨大な固定費を垂れ流すだけのお荷物でしかない。業績は悪化の一途を辿り、不採算店の整理に着手せざるを得なくなった結果、最も多い時で1000を数えた店舗は、現在737店にまで減少した。

1万戸の原状回復が工事丸投げで利益を確保できず

 不振のもう一つの要因は、M&A戦略の失敗だ。従来型の家電量販店の運営に限界を感じたヤマダ電機は、住宅や住宅設備、リフォーム、インテリア、不動産関連サービス、ホームファッションなどを融合させた新型店舗に転換する方針を打ち出す。しかし、住宅や住宅、リフォームの分野は、ヤマダ電機にとって全く未知の領域だ。ゼロからノウハウを蓄積するにしても、それだけの時間的な余裕はない。そこで行われたのがM&Aによる会社の買収だ。まず目を付けたのが、業績回復に苦しんでいた中堅住宅メーカーのエス・バイ・エル(現ヤマダ・エスバイエルホーム)で、2011年の公開買い付けで完全子会社化。翌年には住宅設備メーカーのハウステックホールディングス(現ハウステック)を買収した。こうして新事業への足掛かりを作ると、2017年に総合型住宅関連サービス店「インテリアリフォームYAMADA」の1号店を前橋にオープンさせ、さらに「家電住まいる館」の全国展開にも踏み切った。

-これで復活の狼煙が上がった-

誰もがそう思ったが、冒頭で書いたように、業績は上向くどころか、ことごとく期待を裏切った。
 事業間の相乗効果を期待して考え出された新型店が、なぜうまくいかないのか。その原因の1つは、買収したエス・バイ・エルとハウステックホールディングスにあるのではないか。ヤマダ電機としては、M&Aでノウハウと優秀な人材をまるごと手に入れられると安易に考えたのかもしれない。しかし、この2社は当時、再建中の身だった。本当に優秀な人材であれば、全員ではないにしろ、すでに他社に引き抜かれるか、あるいは自ら別の会社に転籍しているはずだ。つまり、買収した時点で、頭数こそ揃っているもの、まともな戦力として期待できる人材はごく少数に限られていたのではないだろうか。もしそうだとすれば、売り上げが伸びないのは当然だ。
 このことを裏付けるのが、ヤマダ・エスバイエルホームが受注した大型リフォーム案件での大失態だ。同社は2017年度、大手企業から延べ1万室もの原状回復工事を受注していた。当然、相当な売り上げと利益を見込んでいたはずだ。しかし、結論から言うと、この案件は失敗に終わった。原因について同社は、「原価管理や施工体制の不備、販管費の見積りがずさんだったこと、さらに加えて追加工・変更工事に伴い人件費などが膨らんだ結果、採算が悪化した」と説明している。筋が通っているようにも聞こえるが、取材を重ねた結果、根本的な原因はもっと他のところにあることが分かった。
 実はこの工事はすべて、下請けに丸投げされてしまっていたのだ。工事を請け負った業者が利益だけを抜き、それをさらに別の下請け業者に出すということが繰り返され、その結果、いくつもの業者が介在することになってしまった。これでは、まともな施工管理などできるわけがない。しかも末端の職人に仕事が回ってくる頃には利益はほとんど抜かれてしまっているため、人手の確保にも苦労したはずだ。
 なぜ、このような失態を侵してしまったのか。それはリフォーム事業を伸ばそうと真剣に考えるスタッフが、社内にほとんど残っていなかったからではないのか。「これからのヤマダ電機はリフォーム事業が支える」という気概を持った社員が少しでもいれば、せっかくの大型案件を丸投げしてしまうことはなかっただろう。結局、同社は2月期決算で12億円もの営業赤字を計上し、グループの業績を悪化させる一因となってしまった。今のところ、リフォーム事業に乗り出している家電量販店の中で、ヤマダ電機が一人負けの状況だ。
 果たしてヤマダ電機の業績回復はあり得るのか。家電販売が伸び悩んでいる上、新築の需要が全体的に下がってきている以上、リフォーム事業に望みを託すしか道はなさそうだが、今期も先行きは不透明だ。事業の強化を図るため昨年11月にリフォーム大手のナカヤマ(埼玉県上尾市)を買収したが、これもすぐには売り上げの拡大にはつながらないかもしれない。なぜなら先に買収した2社と同様、この会社も経営不振に陥っていたからだ。しかも状況は格段に悪かった。買収される直前には多額の負債を抱え、商材の仕入れすらまともにできない状態にあったという話もある。優秀な人材が残りにくい環境にあった。
 従来の家電量販店から脱却し、業績不振のトンネルからの脱出を図るヤマダ電機だが、赤字の会社を買い続けている限り、その道は険しいと言わざるを得ない。まだまだ混迷は続くかもしれないが、ヤマダ電機の復活に期待したい。
ヤマダ電機はなぜ業績不振に陥ったのか? 経営難の会社をM&Aするも売り上げ拡大に寄与せず