法律最先端PART2~民法改正が及ぼす賃貸市場における問題とは?~|知識・教養|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2018.01.15

法律最先端PART2~民法改正が及ぼす賃貸市場における問題とは?~

法律最先端PART2~民法改正が及ぼす賃貸市場における問題とは?~
面談で入居者の人間性を見極めることが大切

 2017年6月2日、120年ぶりとなる民法大改正法案が公布されました。今のところ、2020年1月に施行されるという見方が有力です。実行まであと2年ということになりますので、家主のみなさんは契約書の文言等の見直しが必要になってきます。

 賃貸市場では、地域ごとの異なるルールや、グレーで曖昧な解釈がまかり通っていますが、これらは今回の民法改正を機に、より明瞭化されることになります。
 賃貸借契約においてもっとも多いトラブルは退去時の原状回復ですが、すでに多くの賃貸住宅標準契約書が、国土交通省が判例等に基づいて作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に準拠しているため、民法改正による影響はそれほど大きくないと考えられます。
 最も大きな影響が出るとされるのは、連帯保証人です。保証人に過剰な負担がかからないように「極度額」を設けることが義務付けられます。今までであれば、未払い家賃が数カ月分溜まっても、優良な連帯保証人がいるから回収の心配はないと、高を括ることができたかもしれません。しかし、改正法が施行されると、保証人から極度額以上の債権を回収することができなくなります。もしもこれ以上の滞納が発生してしまうと、家主は赤字を垂れ流すことになってしまうのです。こうした事情から、今後は滞納リスクを回避したいという家主を中心に、滞納保証会社の重要性が増すと思われます。
 また、住宅設備や建物の一部滅失による家賃の減額についても注意が必要です。賃貸住宅は、「換気扇が壊れた」「エアコンが付かない」「クッキングヒーターが壊れた」「電気温水器が温まらない…」など、室内設備が壊れた場合、入居者が賃料減額請求をしなくても、当然、賃料が減額されるのですが、この内容が悪用されることも十分に考えられます。
 新築であれば、こうした類のトラブルは少ないかも知れませんが、経年劣化の激しい物件になると、「〇〇が壊れたから家賃は払わない」といった入居者の主張を、呑まなければならないことがあります。そのため、「スペアーキーだったからカギが回らず、部屋に入ることができなかった」と言われれば、その日の分の家賃をもらうことはできません。「夏場にエアコンがないと脱水症状になるので、この部屋には住めない」と言われれば、エアコンを手配してから納期までの2週間分の家賃をもらうことができないのです。オーナーにとって、これは非常に大きな痛手です。対策としては、契約書に別表で、利用できないときの『項目・内容・期間・減額割合(費用)・返金方法等』を明記して、あらかじめリスクを限定しておく方法が考えられます。
 これは、悪用しようと思えばいくらでもできます。「換気扇の回りが悪い」「ドアの立て付けが悪い…」など、いくらでもクレームを付けることができますし、管理会社はその度に、現地を見に行かなければなりません。
 裁判をするという方法もありますが、少額なので裁判費用の負担の方が大きくなってしまいます。コストを考えると、裁判も起こしにくいのです。
 また、こうした問題は後になって、「報告した」「していない」というトラブルに発展することがあります。そうした事態を防ぐためにも、管理会社にとっては手間が増えるかも知れませんが、やり取りをメールやFAX、録音等できちんと保管しておくようにすることをお勧めします。
 契約書を確認することはもちろん大切です。しかし、保証会社だけに頼り過ぎていると、実際の入居者がどんな人物なのか分かりません。家主は入居者との面談も行い、人柄なども判断して入居者選びをするようにしましょう。

消費者保護を語った悪質な団体も増加


 今回の民法改正ですが、曖昧な見解については消費者有利に傾くことが考えられるため、もしかしたらオーナーの収益を悪化させることがあるかもしれません。実はこれらの主だった内容は、約6年前にすでに、おおむね判決が出ていることを覚えているでしょうか?
 当時の世論は消費者保護偏重で、例え入居者が滞納しても、それを理由に退去させることがなかなかできませんでした。反面、留守電に督促のメッセージでも入れようものなら、「20時以降に電話をされた」「貼り紙をされた」「1ヶ月しか滞納していないのに出て行けと言われた」「連帯保証人の会社に内容証明が届いた」「共用部の電気が切れていたから払いたくない…」等々、何かと理由をつけてはクレームに発展させて、踏み倒そうとする行為が横行していました。
 また、この頃にはNPOや協会を名乗った、悪徳な団体も増えました。ある消費者団体は「悪質不動産会社やオーナーを取り締まる」と高らかに宣言し、消費者保護という名目で企業を呼びつけては、「当消費者団体の意向に沿えないのならば、HP等で悪質会社ということで発表しますよ」と言って脅し、あげく啓発活動への賛助金に協力してくれと、呼び出した企業から年間何千万円ものお金を集めていました。

※誤解がないように言っておきますが、無報酬で本当に市民や企業のために活動している団体も多数あります。
 
 しかし一方で、こうした入居者(消費者)有利に偏りがちな世の中において、家主の立場を守るために立ち上がった不動産会社もありました。
 事の発端は、ある家賃滞納者が、消費者支援機構関西という消費者団体に、「滞納の督促が違法ではないか」と駆け込んだことでした。消費者支援機構関西は早速、事務所にその不動産会社を呼びつけ、「賃貸契約書の文言が違法であるので改善しろ」と迫ったそうです。賃貸契約書の内容は、当時一般的にどこの会社でも使われていたもので、その会社のものだけが特別だったわけではありませんでした。もちろん、弁護士を入れてリーガルチェックも行っていたので、内容には何の不備もありませんでした。しかし、当時は消費者保護の風潮があまりに強かったため、それを良いことに、消費者契約法を逆手にとって無理を言う入居者や悪質入居者が増え、多くの家主が頭を抱えていました。
 当の管理会社は「ここで簡単に引き下がってしまっては業界のためにならない」と考え、裁判によってかの消費者団体と争うことを決意しました。そして平成24年11月12日、賃貸オーナーにとって歓喜の瞬間が訪れました。賃貸業界で大きな注目を集めた裁判は、賃貸オーナーの勝利によって決着したのでした。当時、多くの不動産・法律系の新聞に、その判決文が掲載されたそうです。  
 当時を知る業界の社長に話を聞くと、「はじめ裁判をすると聞いたときに、消費者団体に勝っても金銭的メリットがないどころか、経費ばかりかかって、会社のイメージも悪くなるからやめた方が良いと言いました。しかし、当の不動産会社の社長は、『全国の家主さんから、悪徳入居者やそれらを擁護する団体に負けないで欲しいという応援メールが多数寄せられたので頑張る』と言って聞きませんでした」

消費者団体VS家主・管理会社の戦いが勃発

 大阪の管理会社は、当時の社会情勢もあり、全国のマンションオーナーや管理会社から支持を受けました。一方、消費者支援機構関西は、判決が出てないにもかかわらず、新聞・テレビ等のマスコミを集めて記者会見を行い、「悪徳不動産会社がある」と大いに煽りました。記者会見の模様は日に何度もニュースで流れ、事態は瞬く間に大きくなっていきました。マスコミも消費者団体が訴えたということで、判決すら出ていないものに散々踊らされました。
 
 以下、判決で賃貸オーナーが勝ち得た権利を記載します。今後の契約書作りの参考にしてもらえればと思います。

原告 ①破産等による契約の解除は違法なのか? 
本件解除条項のうち、解散、破産、民事再生、会社整理、会社更生、競売、仮差押、仮処分及び、強制執行の決定又は申立てについては、賃借人の支払い不能状態、経済的破錠を徴表する事由であり、賃貸借契約当事者間の信頼関係を破壊する程度の賃料債務の履行遅滞が確実視されるという事由という事ができる。したがって、本件解除条項のうち、上記の事由が発生した場合に賃貸借契約の解除を認める部分は信義則に反するものではなく、消費者契約法10条(以下、消費者契約法を法とする)後段に該当しない。よって上記部分の差し止めは認められない。
【これにより賃貸人は賃貸借契約の解除が出来るようになり。家賃が入ってこないというリスクがなくなった】

原告 ②退去時の明渡しで、退去しない場合2倍の家賃の損害金を取ることは違法なのか?
賃借人が明渡義務を怠っていながら、本件損害金条項が適用されないとすると、賃借人は、基本的な義務を怠っているにもかかわらず、契約締結期間中と何ら変わらない経済的負担によって賃借物件の利用を継続できることになり、何ら明渡義務の懈怠に対する不利益がない以上、明渡義務の履行促進が期待できずに不合理である。
 また、賃借人は本件損害金条項の適用を回避するには、明渡という基本的義務の履行が懈怠されている場合には、賃借人の明け渡しのために相当の費用及び時間をかけて訴訟手続き及び強制執行手続きを取らなければならず、その費用も確実なものとはいいがたく、回収に至るまでの時間を金銭的に評価すると相当なものになる事は容易に想定され、賃借人に通常生ずべき損害は賃料相当額にとどまるものではない。
 以上によれば、本件損害金条項において、賃料の2倍の損害金を損害賠償の予定として定めることは、審議原則に反するとはいえず、本件損害金条項は、法第10条後段に該当しない。
【これによって、賃貸人は退去時にいつわる悪質入居者から、家賃の2倍相当額を請求する事が出来るようになった。本来退去前には、新入居者は賃貸募集をしており、期日通りに入居をさせる事ができなければ、オーナーは新入居者に対して家賃相当額の違約金を払う事が一般できでる為、この主張が通ったことは安心して新入居者を募集できることにもつながる】

原告 ③債務不履行の賃借人に対する催告の費用3,150円(当時の消費税5%)を定額で請求するのは違法なのか?
賃借人が賃料むという賃貸借契約における基本的義務の履行を怠っている場面である事を前提としなければならない。賃貸人は、催告の実費を賃借人に請求するには、電話代、郵便代、交通費などのコストのみにとどまらず、その証憑書類を確保し、回収まで保存するなどのコストも必要となるのであって、これらのコストは膨大なものになり、債務の履行を受けていない立場であるのに、過大な負担を強いられることとなる。他方、賃借人は、基本的な義務である賃料支払いを履行期までにすれば、本条項の適用を免れるし、その金額も不当に高額までとは言えない。
【これによって、オーナーは今まで自腹を切っていた督促費用の持ち出し分が一部監修できることになったのである。】
なお、この時の判決として、催促費用は、遅延損害金ではなく催告が行われた際に要する費用である、よって法第9条2号に反しないとされた。

原告④退去時のクリーンアップ代(ハウスクリーニング代)の支払い義務を入居者にするのは違法なのか?
賃貸物件の自然損耗や通常の使用にかかる損耗、いわゆる通常損耗の発生は、賃貸借契約の性質上当然に予定されており、その回復費用は賃料に含まれているというのが原告の主張である。
貸主借主負担表において、清掃作業のうち、フローリングのワックスがけなどが貸主の費用負担、借主が通常の清掃を実施している場合の専門業者によるハウスクリーニングクリーンアップ代が借主の費用負担と明記しているから、賃借人にとって、クリーンアップ代の支払いによって負担する部分について名確に認識することができる。
また、本条項の内容をみると、クリーンアップ代の金額が賃借物件の床面積に応じた定額とされている。本条項が特約事項として本件新契約書に記載されれば、賃借人は、賃料に加え、クリーンアップ代を負担する事を明確に認識して契約を締結する事になり、このような合意が成立する場合には、賃料から上記クリーンアップ代の回収をしない事を前提に賃料が合意されているとみることが相当である。また、本条項を適用すると、賃借物件の清掃実費によっては、賃借人が支払う必要のない金員を支払う不利益を被る可能性もある一方で利益を享受する可能性もあるが、クリーンアップ代の金額が概ね1㎡あたり1,000円前後であることからすると、クリーンアップ代が不相当に高額に過ぎるという事はできず、賃借人が不利益を被る可能性は低いという事ができる。よって法10条後段に該当しない。
※原告は別途請求する修繕費と二重取りになると食い下がったが、修繕が前提とする作業は修繕作業であって、対価となる作業が異なるので、主張は失当であるとされた。

 この勝利は、賃貸オーナーにとっては非常に大きく、全て自然損耗で済ませてきた消費者団体に対して一石を投じることになりました。これによって部屋を汚された場合に、オーナーだけが泣き寝入りしなくてもいいようになりました。

 この他にも、原告の訴えの殆どは失当したそうです。一部認められたのが、本件解除条項のうち、成年被後見人及び被保佐人の開始審判や申立てを解除事由とする部分については、法第10条に該当するという内容でした。

消費者庁は消費者を守るだけの役所にあらず

 消費者寄りの社会情勢の中で、当時の裁判官が公平な判断をしたことは、不動産・住宅関連の新聞各紙でも大々的に報じられました。しかし一方で、かの不動産会社を悪徳管理会社扱いし、モザイクを入れてまで放送したTV局や一般紙などは、産経新聞一紙を除いて、この裁判結果を取り上げなかったそうです。
 また、本紙ではこの結果について、消費者庁の方にも国会議員会館にて取材をしました。担当者は「消費者庁は、消費者を守るだけでなく、企業も守るためにある。だから、悪質なクレーマー等があれば相談をして欲しい」とコメントして下さりました。
 企業からすると、消費者庁と聞くと消費者だけが守られるところだと勘違いしてしまいますが、何かトラブルに巻き込まれそうになったら企業であろうと消費者であろうと、まずは相談することが良いということです。
 また、最近は非営利と謳いながら、企業から寄付金や賛助会員という名目で多額なお金を集める消費者団体も少なからずあります。消費者庁の担当者は、それらに関しても疑問があれば言ってきて欲しいとアドバイス下さりました。多額な寄付金を貰った企業に対して、何かしらの忖度がされていないことを願うばかりです。

追記 ちなみに消費者支援機構関西に相談に行った入居者からは、その後、不動産管理会社へ請求や損害賠償等の類はなかったそうです。なんとも不思議な被害者なき裁判でした。
 また、裁判中には、消費者である入居者からも「そもそも滞納する人が悪いのでは…」というコメントも多く寄せられていたそうです。飲食やホテルの支払いはしなければ罰せられるのに、賃貸業界だけが、滞納しても裁判結果が出るまで堂々と1年間くらい居座ることができ、かつ罰則もないというのだからおかしな話だと思います。
法律最先端PART2~民法改正が及ぼす賃貸市場における問題とは?~