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2020.05.04

本紙記者 緊急リポート 不動産業界に迫る新型コロナの脅威

本紙記者 緊急リポート 不動産業界に迫る新型コロナの脅威
新型コロナウイルスでビルオーナーも四面楚歌
賃料の減額、猶予は受け入れるべきか否か?

 メディアでは連日、新型コロナウイルスの影響で飲食店が経営危機に直面しているとのニュースが盛んに報道されている。しかし、経営危機に直面しているのは飲食店だけではない。テナントを貸しているビルオーナーも、飲食店が潰れれば甚大な被害を被る可能性がある。果たして、ビルオーナーはこの緊急事態にどう対処するべきなのか。混乱する現場を本紙記者が緊急取材した。

「新型コロナウイルスの影響で、何件か賃料に関する相談が来ている。一体どうすれば良いのか・・・」

 こう話すのは、大阪市内に6階建てのテナントビルを所有するAオーナーだ。4月某日、携帯電話にかかってきた一本の電話を終えた直後に発した言葉だ。
 Aオーナーの物件があるのは大阪市内の繁華街の一角。大通りから一本入った路地に6年前に新築したもので、6つあるテナントはすべて飲食店を運営する法人に賃貸している。周辺相場よりも1割ほど高い賃料設定だが、これまで空室が出たこと一度もないという。
そんなAオーナーに電話をかけてきたのは、ビルの2階で飲食店を経営している東京のY社だった。ビルが完成した6年前から入居しているテナントで、当初から平日でも満席になる人気店だった。しかし、新型コロナウイルスの影響で、2月中旬頃から客数が減少。3月末には、ピーク時の3割程度にまで売上が落ち込んでしまった。そんなどん底状態のときに発令された緊急事態宣言を受け、会社は当面の間の営業自粛を決断。4月8日から休業に入っていた。
そんな状況であるから、当然、良い話があって電話をかけてきたわけでないことはAオーナーでなくとも察しはつくだろう。電話口の担当者は、

「緊急事態宣言が出たため、店をしばらく閉めることになった。当面は売上が立たないため、賃料を少し減額して欲しい」

と切り出した。予想していた内容ではあった。事情が事情なだけに、Aオーナーとしても何とか協力してやりた気持ちはある。しかし、自身もまだ多額の借入金がある身。賃料収入が減れば、不足分は身銭を切らなければならない。ここで強気に出て、家賃を滞納されても困る。また、会社が倒産するようなことになれば、Aオーナーが大きな損失を被ることになるかもしれない。判断の難しいところだ。
 だが、Aオーナーのケースはまだましな方だ。Bオーナーの状況はもっと深刻だ。Bオーナーが所有する物件は、神戸の繁華街にある。築12年、5階建てのテナントビルで、1階をコンビニに貸している以外は、すべて居酒屋チェーンが入居している。こちらも新型コロナウイルスの影響で、3月の終りには全店が開店休業状態となり、緊急事態宣言が発令された後に本休業に入った。賃料に関する相談が来るようになったのは4月に入ってから。減額はやむを得ないかと覚悟していたが、3階のテナントだけは3カ月間の支払い猶予を打診してきた。Bオーナーも賃料収入のほとんどを借入金の返済に充てているため、それが大きく減るのは死活問題だ。減額だけなら、これまでの蓄えで不足分を補填すれば、しばらくの間はしのげそうだが、猶予となれば話は別だ。しかも、この状況がいつ終息するのかまったく見通しの立たない今の状況では、3ヶ月の猶予だけで済むのかも分からない。
 ちなみに3階のテナントは東京と大阪で65店舗を出店する新興居酒屋チェーン。現在、全店休業中で、経営状況はかなり厳しいようだ。おそらく他の店舗でも賃料の支払い猶予か減額を打診しているはずだ。つまり、Bオーナーだけが支払い猶予を受け入れても、経営状況はほとんど改善されない。それどころか、他のビルオーナーが要望を断れば、会社は経営破綻してしまうかもしれない。これもまた、どう対応するべきか判断が難しい。
 テナントからこうした賃料の減額や支払い猶予を打診された場合、ビルオーナーはこれを受け入れなければならないのか?3月31日、国交省のこの件に関して、不動産関連の業界団体に向けて「柔軟な措置の実施を検討するように」との要請を出している。あくまでも要請であるから、オーナーがこれを受け入れなければならないということではない。だが、実際問題として、減額や猶予を受け入れなければ、テナント自体がつぶれたり、退去してしまう可能性もある。今の状況下で入居テナントがなくなるのは、オーナーにとっても痛い。かといって、オーナーも生きていくためには賃料収入が必要なため、容易に減額や猶予を受け入れることはできない。オーナーも四面楚歌といったところだろう。
 国交省は現在、オーナー救済措置の一つとして、金融機関に対して「元本・金利を含めた返済猶予などの条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること」と要請を出しているとされる。ビルオーナーの対応は、これが実現するかどうかを見定めたうえでの判断になるだろう。