真説賃貸業界史 第62回「物件動画の先駆者は事業開始2年で倒産」|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2024.07.22

真説賃貸業界史 第62回「物件動画の先駆者は事業開始2年で倒産」

真説賃貸業界史 第62回「物件動画の先駆者は事業開始2年で倒産」
今では当たり前の物件動画

 2000年以降のインターネットの普及とIT技術の進化に伴い、物件情報サイトは目覚ましい進化を遂げてきた。かつては写真と文字による情報だけだったものが、今では動画なども掲載され、直接物件に足を運ばなくても、サイトだけでほぼリアルな情報を伝えることができるようになった。今回は、物件情報サイトに革命をもたらした動画サービスについて振り返った。

 現在の不動産情報サイトには、当たり前のように物件の動画映像が掲載されている。部屋の様子や備え付けられた設備の状態、窓からの景色などはその動画を見れば一目瞭然。あたかも現地にいるような感覚で物件の状況を把握することができるため、消費者はわざわざ現地まで足を運ばなくても部屋探しをすることができる。部屋探しの効率は動画の登場によって大きく向上した。
 そんな今日では当たり前の物件動画も、普及するまでには多少の時間を要した。不動産業界の中で、最初にこの種のサービスの展開に力を入れた企業として広く知られているのはUNAITED ROOMS(ユナイテッドルームズ)だ。同社は2004年8月に伊藤俊平氏によって設立された映像コンテンツ制作を事業の核とするIT企業。不動産業界以外にも、ヘアサロンやレストラン向けにもサービスを展開したが、事業規模に見合わない多額の先行投資が仇となり、事業開始からわずか2年足らずで約2億円の負債を抱えて倒産した。期待が高かっただけに、当時は同社の倒産を惜しむ声も多かった。
 それにしても、なぜ同社の事業はうまくいかなかったのか。その革新的なサービスに時代や不動産業界が追いつけなかったと言ってしまえばそれまでだが、一番の原因はビジネスモデルにあったのではないか。同社が不動産向けに提供していたサービスは「スタイリッシュムービー」という映像配信サービスだ。事業開始当初は3年間3万7800円でサービスの提供を行っていたが、2006年12月からより多くのユーザ不動産会社に利用してもらえるようにと、初期費用3000円に月額3000円という、より導入しやすい価格に改定した。真偽は不明ながら、同社は新価格を発表した時点で、すでに250社を超える企業に対し、賃貸物件、分譲マンション、オフィスなどの動画を1万件以上提供していたとされている。ざっと計算すると約3億7800万円の売上だ。設立からわずか4カ月目の会社としてはかなり優秀だ。年商に換算すると約15億円ということになる。先行投資がかさんでいたとしても、簡単に潰れるような数字ではない。それにもかかわらず倒産してしまったということは、当時公表されていた数字が正確ではなかったか、あるいは実績作りを優先して割引価格でサービスを提供するケースが多かったため、実際にはそれほど売上が上がっていなかったのではないか。今となっては、真相は藪の中だ。
 いずれにせよ、今日、不動産情報サイトでこれだけ動画が普及していることを考えると、ユナイテッドルームズの目の付け所は決して悪くなかった。むしろ先見の明があったと称賛されるべきだろう。うまくいかなかったのは、ビジネスモデルの欠陥に加え、不動産業界が極度にアナログ体質だったこと、当時のインターネット環境が動画サービスをストレスなく利用できるほど整っていなかったためだと考えられる。
不動産業界に限らず、新しいサービスに対しては誰もが慎重になるものだ。

「本当にうまくいくのか・・・」
「とりあえず誰かがやるのを見てからにしよう・・・」

と、導入に消極的だった不動産会社もたくさんあっただろう。同社が倒産してもなお、そうした考えを持っていた業者は多かったはずだ。資金繰りが苦しくなった時点で、手を差し伸べる人間が誰もいなかったことを見ても、不動産業界が動画に対して懐疑的だったことは明らかだ。
 ユナイテッドルームズの倒産から18年、今では不動産情報サイトのみならず、不動産会社のホームページを見ても、どこも動画は当たり前に掲載されている。消費者サイドからすれば、動画があるからこそ、遠く離れた場所からでも部屋探しをすることができる。内見のために遠くから足を運んだにもかかわらず、実際に現地を見たら思っていたのと違うという事態が起こりにくくなったことは間違いない。今や部屋探しに動画は不可欠になったということだ。不動産業界に一石を投じたユナイテッドルームズについて振り返った。