真説賃貸業界史 第62回「2000年代の賃貸市場を賑わせた家賃債務保証サービス」|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2024.04.23

真説賃貸業界史 第62回「2000年代の賃貸市場を賑わせた家賃債務保証サービス」

真説賃貸業界史 第62回「2000年代の賃貸市場を賑わせた家賃債務保証サービス」
上場した会社はすでに倒産

 -新規契約時には家賃債務保証サービスに加入する-今では当たり前になったが、サービス自体は登場してからまだ30年足らずと、その歴史は浅い。だが、わずか30年の間にもサービスを取り巻く環境は激変し、同業者が乱立したかと思えば、倒産・廃業が相次ぎ、事業者の勢力図は大きく変わった。今回はかつて存在した大手家賃債務保証会社2社についてまとめた。

 賃貸借契約において今や不可欠となった家賃債務保証サービス(当時は滞納保証や家賃保証(※サーブリースとは異なる)などと呼ばれていた)が世間からもっとも注目を集めていたのは、今から15年以上も前のことだ。当時、リプラスという会社があった。同社は2002年9月に、姜裕文氏によって設立。家賃の入金確認から集金、督促、立て替えといった、当時としては珍しかった洗練されたサービスで瞬く間に業績を伸ばし、会社設立からわずか2年で東証マザーズへの上場を果たした。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、その活躍は賃貸業界のみならず、他の業界からも大きな注目を集めた。
 しかし、その勢いは長くは続かなかった。家賃債務保証サービスと並ぶ主力であり、売り上げの大半を稼ぎ出していた不動産ファンド事業が、リーマンショックを契機としたファンドバブルの崩壊で大打撃を受け、収益が激減。2008年7月にオーナーに対する家賃の送金遅延が生ずると業界内で同社に対する信用不安が発生。姜社長は信用回復を図るために急遽業界専門紙のインタビューに応じたものの、結果には結びつかず、同年9月に破産した。負債総額は約325億7000万円にものぼった。わずか6年、あまりにも短い社命だった。
 当時、業界内で同社は家賃債務保証会社として認知されていた。しかし、前述したように、売り上げの大半を稼ぎ出していたのは、国内外の機関投資家から集めた資金を不動産に分散投資する不動産ファンド事業であり、実質的には投資会社と変わらなかった。うがった見方かもしれないが、家賃債務保証を始めたのは、物件を購入するための資金集めが目的だったのではないか。今となってはその真相が明らかになることはないが、思わずそう勘繰りたくなる。
 同社の経営破綻は、家賃回収を委託していたオーナーのみならず、多くの企業にも影響を与えた。大阪に本社を構えるある建設会社は、リプラスの購入を前提に大型のマンションを建設中だったが、一方的に梯子を外されたことで計画がとん挫。結果的に別の売却先を見つけることができて事なきを得たが、もし買い手が見つからなかったら連鎖倒産の可能性があったという。家賃債務保証会社としての規模や売上高だけでなく、多くのオーナーや企業を巻き込んだという点から見ても、リプラスの倒産は家賃債務保証サービス史上最大の倒産劇だったと言えよう。
 リクルートフォレントインシュアも、華々しく一時代を築いた家賃債務保証会社だった。同社が家賃の支払い保証サービスに参入したのは2006年。当時は家賃債務保証会社の設立ラッシュの時期で、各地で次々に新たな家賃債務保証会社が誕生していた。リクルートの参入もそうした動きの一つで、多くの注目を集めた。もともと情報誌発行で全国の不動産会社とネットワークがあった同社は新参者にもかかわらず、参入後すぐに勢力を拡大。あっという間に有力企業の一つに成長した。
 しかし、同社がリクルートの子会社として存在したのはわずか10年ちょっとに過ぎなかった。2017年10月に、同社は信販会社オリエントコーポレーションに譲渡され、現在はオリコフォレントインシュアとして事業を展開している。リクルートが家賃債務保証事業から撤退した理由については明らかになっていないが、おそらくサービス自体が業界内に定着し、さらなる成長が見込めなくなったと判断されたからだったのではないか。家賃債務保証サービスは2000年から15年ほどで一気に普及し、現在では新規入居時の際は加入を義務付けている物件がほとんどだ。家賃債務保証会社の淘汰も進み、最近は新規参入の話もすっかり聞かなくなった。よほどのことが起こらない限り、各社のシェアが大きく変わることもないだろう。よく言えば安定しているが、見方を変えればここから大きく成長する余地はほとんど残されていない。リプラスのように不動産投資でもやれば話は別だが、同社の顛末を見たら、そんな気はおそらく起こらないだろう。良くも悪くも、家賃債務保証サービスは成熟しきってしまったと言える。
 今回は家賃債務保証サービスブームの中で一時代を築いた2社について取り上げた。次回も業界の歴史に名を残す企業や出来事を取り上げる。