東証プライム上場ゼネコンで起きた巨額横領事件|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2024.03.04

東証プライム上場ゼネコンで起きた巨額横領事件

東証プライム上場ゼネコンで起きた巨額横領事件
容疑者親子がついに逮捕

 2月14日、3億6000万円という前代未聞の巨額横領事件で男2人が逮捕された。
 事件の舞台となったのは、東証プライム市場に上場する建設会社ヤマウラ(長野県駒ケ根市)だ。同社は1920年創業の同県を代表する老舗建設会社の一つで、公共工事を主体としつつも、戸建て住宅の分譲やリフォームなど、さまざま民間事業も手掛けている。不動産業界に従事している方には、賃貸マンションブランド「ブレインマンション」を全国にフランチャイズ展開している企業だと言った方が馴染みがあるかもしれない。2023年3月期には、約313億円8100万円(連結会計上)を売り上げている。
 そんな名門企業の同社で起きた今回の事件。発覚したのは昨年5月。同社の監査法人が社員による不適切な支出があったと指摘したことがきっかけだった。すぐに被害届を出した同社は第三者委員会を設置して事件について詳しい調査を実施。その結果、不正な引出しは2013年頃から事件発覚直前まで約10年間にわたり行われていて、被害総額は今回の逮捕容疑も含め、約26億3885万円にも上ることが判明している。
 逮捕されたうちの一人は、同社の元社員・村田浩幸容疑者で1988年に入社した。94年に経理チームに配属となり、マネージャーとして約30年間にわたり、同社及び子会社で不動産事業を手掛けるヤマウラ企画開発の経理業務を担当していた。もう一人は浩幸容疑者の長男・村田俊樹容疑者で、上伊那郡に本社を構える建設機械レンタル・リース会社の代表を務めている。2人は共謀して架空の請求をでっち上げて、定期的に長男の会社の預金口座に現金を振り込んでいたとされる。横領した金は遊興費やブランド品の購入に充てられていたとされる。中には六本木や大阪で豪遊し、一晩で500万円を使っていたという報道もある。
 それにしても腑に落ちないのは、これほど巨額の横領が10年間も発覚しなかったことだ。単純計算で年間3億円だ。普通、毎年これほど大きな金額の取引をしていれば、どんな会社か、どこの現場の仕事を発注しているか、把握している人間が社内に最低でも数名はいるはずだ。また、同社の売上規模からすればわずかかもしれないが、金額的に見たら、主要取引先の一つに名を連ねていた可能性も十分にある。それにも関わらず、同社に対して誰も関心を持っていなかったというのはおかしな話だ。実際、ある報道は長男の会社にはほとんど営業実態はなかったとしている。ちょっと調べればすぐにわかることであるにもかかわらず、それをまったくしてこなかったというのは、どう考えても同社の怠慢だったと言わざるを得ない。
 そもそも社員の身内が経営する会社と取引するのであれば、事前に調査を行うのが普通だ。非上場の親族経営の会社ならともかく、ヤマウラはれっきとした上場企業だ。ガバナンスに対する意識が欠如していたとしか思えない。この間に同社の決算業務を担当していた会計事務所の目も節穴だったのだろう。
 株主からしたらたまったものではない。本来あったはずの1年あたり約3億円もの利益が、10年間にもわたりなかったことにされてきたのだ。大株主であれば、それなりの還元を得られていたのではないだろうか。これについて経営陣はどう責任を取るつもりなのか。
 今のところ、ヤマウラからは今回の逮捕劇に関するプレスリリース等は発表されていない。「捜査中だから」というのが同社の言い分なのだろうが、それはあまりにも卑怯だと言わざるをえない。昨今、大手企業の不祥事が続いているが、いずれも詳細は控えるにしても、すぐに謝罪のコメントくらいは発表している。リリースを発表したところで非難の声が止むわけではないが、少なくとも非を認めて事件解決に真摯に取り組もうとしているのだなという姿勢は伝わる。わざわざ言うまでもないが、悪いのは逮捕された容疑者二人だ。だが、それができる環境にしてしまっていた同社にも責任の一端はあるはずだ。同社も一刻も早く、自らの非を認め、謝罪のコメントを発表するべきではないだろうか。