相続不動産相談所~「もしも」のときに備えた「信託」活用のススメ~|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2022.05.23

相続不動産相談所~「もしも」のときに備えた「信託」活用のススメ~

相続不動産相談所~「もしも」のときに備えた「信託」活用のススメ~
今は元気な母が認知症になったら財産の相続はどうなる?

「相続対策をやろうかと悩んでいるうちに、父が認知症になってしまい、正常な判断をすることができなくなってしまった。税理士に相談したところ、こうなってしまっては通常の方法では相続対策はできないと言われた・・・」

 相続対策は、相続人が正常な判断を下せる状態のときに行わなければなりません。冒頭のコメントにあるように、相続人が認知症を患って正常な判断を下せなくなってしまったり、急逝されてからだと、不動産をはじめとする資産の売却ができなくなってしまうこともあります。こうした事態を避けるための制度として「信託」があります。今回は「信託」を使った相続対策事例をご紹介します。

 みなさんも、「信託」という言葉を一度や二度は聞いたことがあるのではないでしょうか?「信託」とは、大切な財産の運用や管理、継承を信頼できる第3者に託して行ってもらうための仕組みで、主に相続対策に利用されます。相続トラブルを防ぐための手段として、「信託」を進める税理士も増えています。
 では、相続対策にこの仕組みを利用すると、どんなメリットが得られるのでしょうか?神奈川県横浜市にある相続専門のA税理士事務所が手掛けた、相沢義男さん(仮名)の事例を参考に解説していきます。
 まず、相沢さんを取り巻く状況の確認です。

・相沢さんのお母様は75歳で、横浜市内の自宅マンションで一人暮らしをしています
・相沢さんは奥さんや子供とともに、川崎市内で暮らしています
・相沢さんは、お母さんに介護が必要なったときは、ヘルパーを利用することを考えています
・介護に必要な費用は、お母様がお住いのマンションを売却する予定です
・お母さん名義の貯金は、すべてお母様の生活のために利用する予定です
・お母さんは、これから住宅を購入する予定の、義男さんの妹にあたる長女夫妻に、住宅資金の贈与をしたいと考えています。義男さんはこれに賛成している。ただし、物件はまだ見つかっていません
・現状、お母さんはお元気ですが、相続前に認知症になった場合に、贈与やマンションの売却ができなくなるのではないかと心配しています

 以上のような条件の中では、どのような事前準備をしておくのがベストなのでしょうか?相談を受けたA税理士事務所は、「民事信託」制度を利用することを提案したそうです。
具体的には、まずお母さん名義になっているマンションを、義男さん名義に変更します。その次に、投資信託や株式といった不動産以外の資産はすべて現金に換え、お母さんが普段から利用している銀行で、委託者が母で受託者を息子とする信託口座(普通預金口座)を開設します。生活費については、信託口座から毎月送金するようにします。
義男さんはアドバイス通りに手続きを進めました。結果、以下のようなメリットを得ることができました。

・贈与税がかからなくなった
・贈与税よりも金額の低い登録免許税で名義移転することができた
・現金は信託で預けているだけの状態になっているため、名義移転をしても不動産取得税がかからなくなった
・お母様が認知症になってしまった場合も、義男さんの契約と印鑑があればマンションを売却することができるようになった
・売却代金は、義男さんが介護費用として管理できるようになった
・長女が物件を購入する際は、特例で贈与税を支払わずに住宅資金の贈与を行えるようになった
・住宅資金の一括贈与などで相続税を節税できるようになった
・おかあさんが認知症を発症しても、口座の凍結が最小限で済むようになった

義男さんが当初抱いていた不安のすべてが、「民事信託」を利用することで、見事に解決することができました。

「母に万が一のことがあっても、ちゃんと財産の相続ができるようになっただけでなく、高い節税効果も得られました。もちろん、母にはできるだけ元気で長生きしてもらいたいです」

義男さんはとても満足したそうです。
「まだ元気だから」と、相続対策を先延ばしにしてしまう方は結構いますが、いつ何が起きるか分かりません。何かあったときに苦労するのは、配偶者やお子さん方、被相続人であることを忘れてはいけません。相続対策は、元気な時にこそやるべきです。相続や事業承継等についてお悩みの方は、お近くの相続不動産実務主任者にご相談下さい。