ヤマダHDの大塚家具吸収合併に賛否の声|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2022.05.09

ヤマダHDの大塚家具吸収合併に賛否の声

ヤマダHDの大塚家具吸収合併に賛否の声
今後のM&A戦略への影響を懸念する声も

 「青天の霹靂」か、それとも「予定調和」か。大塚勝久氏は法人としての大塚家具が5月月1日をもって消滅するというニュースを聞いたときどう思ったのか・・・。
 2月14日、ヤマダホールディングス(群馬県高崎市)は傘下の大塚家具(東京都江東区)を、5月1日付で子会社のヤマダデンキ(群馬県高崎市)に吸収合併すると発表した。合併によって法人格は消滅するものの、大塚家具のブランドや店舗は存続する。2014年に起きた大塚久美子社長解任に端を発するお家騒動から約8年、高級家具の代名詞として知られた家具販売会社は、半世紀の歴史に幕を下ろす。

 世間の反応はさまざまだ。「ブランドが残ったのだから良かったじゃないか」という声もあれば、「結局、得したのはヤマダホールディングスだけだ」という声もある。インテリア業界に詳しいある専門家は

「これは、大塚家具がヤマダグループ入りした当初から決まっていたシナリオだったのではないか。反発を防ぐために、段階的に計画を進めてきた結果、このタイミングでの発表になったのでは」

と話す。
 確かに今、改めて振り返ってみると、大塚家具の吸収合併はすべて計画的だったように見えなくもない。例えば2019年12月に、ヤマダ電機(現ヤマダホールディングス)が大塚家具のグループ入りを発表した会見の場で山田昇会長は、大塚久美子社長への期待を口にしていた。しかし、実際にはそのわずか1年半後に、「経営再建がうまくいっていない」ことを理由に、ヤマダ電機は大塚家具に役員を送り込み、さらに当時の三嶋恒夫ヤマダ電機社長は大塚家具の会長に就任した。おそらくこの時点で、久美子社長の権限はかなり制限されていたのではないか。一応、翌年度も久美子社長の続投は既定路線だったようだが、結局、久美子社長は2020年12月1日付で退任してしまった。本人は「経営再建に道筋がついた」からと、退任の理由を説明しているが、「あれだけ社長の座にこだわり続けていた人がやけにあっさりしているな」という印象を受けた人も多いのではないだろうか。本当の理由は本人達しか知りえないが、世間では「用済みでクビにされた」「見切られたのではないか」と噂された。
 ヤマダホールディングスからしてみれば、してやったりではないか。ブランド価値が下がったとはいえ、「大塚家具」の知名度は今も家具ブランドの中ではずば抜けている。それを2年半も経たないうちに完全に手中に収めることができたうえ、創業家もいなくなった。もう誰に気兼ねする必要もなく、思い通りに動かすことができる。標榜する「暮らしの総合提案企業」に、また一歩近づけたはずだ。
 一方で、大塚家具の吸収合併が、今後のM&A戦略に悪影響を及ぼす可能性があると指摘する専門家もいる。企業のM&Aを手掛ける専門家は

「近年、ヤマダホールディングスは住宅会社や住設メーカー、リフォーム会社などを積極的にM&Aしています。される側にとっては企業としての存続が絶対条件のはず。しかし、今回の一件で、ヤマダホールディングスの狙いがブランドにしかないことが明白になった。今後は、『ヤマダ傘下にだけは入りたくない』という声が出てくるかもしれない」

と指摘する。M&Aによって家電量販以外の分野に事業領域を広げてきたヤマダホールディングスにとっては、あまりありがたくない兆候だ。過去にはリフォーム大手のナカヤマが、ヤマダ電機との業務提携、資本提携を経て、2018年に吸収合併されて消滅した事例もある。ヤマダ・エスバイエルホーム(旧エス・バイ・エル)、ヤマダレオハウス(旧レオハウス)、ヒノキヤグループといった傘下の住宅関連子会社も、もしかしたらいつか1つに統合されるかもしれない。
 大塚家具の吸収合併が吉と出るか凶と出るか。主力の家電販売とのシナジー効果だけを見れば、おそらく成功だと言えるだろう。事実、大塚家具は昨年11月の第2四半期決算で、長いトンネルから脱し、黒字化した。しかし、吸収合併の是非については数字だけで判断してはいけない。前述したように、M&Aを含めた他の戦略へ及ぼす影響等も含めて、総合的に分析する必要があるだろう。
 久美子前社長は、合併については何も知らされていなかったという。父である勝久氏を追い出してまで手に入れた会社がなくなることをどう思っているのだろうか。いつか胸の内を明かして欲しいものだ。