不動産市場を占う~インド発ホテルベンチャー、急激な事業展開が頓挫~|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2020.02.24

不動産市場を占う~インド発ホテルベンチャー、急激な事業展開が頓挫~

不動産市場を占う~インド発ホテルベンチャー、急激な事業展開が頓挫~
わずか1年足らずで戦略を見直し
 
 開発したビジネスモデルが本当の意味で世の中のニーズに合致したものであるかどうかが分かるのには、ある程度の時間が必要だ。スタートダッシュに成功したところで、それは物珍しさに人々が反応しただけで、短時間で飽きられてしまうこともよくある。今回は、インド発のホテルベンチャー、OYO(オヨ)とヤフー(現Zホールディングス)が組んで始めた日本初のアパートメントサービス「OYO LIFE(オヨ・ライフ)」について議論を交わした。

-昨年2月にOYOとヤフーが発表した「OYO LIFE」(以下OYO)が、ここに来て大きな壁にぶつかったようだと、賃貸業界で大きな話題になっています。すでにZホールディングとの提携関係も解消されたようです。

A社長 煩わしい入居手続きや高額な入居費用などがいらず、スマホ一つで手軽に賃貸に住めるというOYOのビジネスモデルは、初めて聞いた時には大きなインパクトを受けた。もしかしたら本当に日本の賃貸ビジネスを変えてしまうんじゃないかと思ったよ。実際、1年も経たないうちに物件を8000室まで増やしたっていうんだからすごいと思う。お金があるっていいよね。

B社長 まさかインドの会社が日本の賃貸市場に殴り込んでくるなんて思いもよらない出来事だったしね。しかもヤフーまで絡んでいるとあって、ものすごい注目を集めていた。

C社長 でも結局、ヤフーは1年も経たないうちに手を引いてしまった。資金力を武器に一気に市場シェアを伸ばす目論見だったようだけど、完全に見誤った感があるよね。

D社長 OYO自体は物件を持っていないから、一般オーナーから借り上げなければならない。計画に狂いが生じた原因は、物件の数を増やすことばかりに気を取られ、需要のないものまで借りてしまったことだと言われているね。中には相場よりもはるかに高い賃料で借り上げた物件もあったと聞いている。

B社長 僕の知り合いの不動産投資家のところにも、知人の紹介でOYOの営業マンが来たそうだけど、信じられないような高値を提案してきたことでかえって不安を感じ、結局断ってしまったそうです。

A社長 最近になって「突然、OYOから解約通知が来た」という話が、ネット上で話題になっている。幸い、これから繁忙期だからまだいいけど、これが5月とか6月の閑散期だったら目も当てられない。解約されたオーナーは首が回らなくなっていたかもしれないよね。まあ、たったの数カ月だったとはいえ、相場より高い賃料で借り上げてもらえたのであれば、ちょっとした特需だと思うしかないだろうね。

D社長 そもそも今の賃貸ビジネスは、昔と違って楽をして儲かるものじゃない。それなりに手間もお金もかかるし、努力もしないで儲かるわけがない。でも、ちゃんとやれば、しっかり利益は出ます。OYOに丸投げすればて儲かるなんて考える方がどうかしていると思う。

C社長 日本法人の社長に据えられた方は、ホテル業界ではちょっとした有名人だったみたいだけど、半年くらいで降格されちゃったしね。割と早い時期から、この会社はヤバいかもしれないという気はしていました。

B社長 急激な事業拡大が仇になったという見方が強いようだけど、僕は賃貸業界の経験がほとんどないような人間ばかりを集めてやろうとしたことが、失敗のそもそもの原因なんじゃないかと思う。もっとも、OYO自体は、Zホールディングスとの契約解消も、サブリース物件の解約も、失敗だとは言っていないけれどね。でも、これは誰がどう見ても、失敗だと思うはずだ。

D社長 賃貸を利用した民泊運営が流行ったこともあって、ホテルビジネスと賃貸ビジネスの垣根がなくなったという人もいるようだけど、実際はそんなことはない。両者はまったく違うビジネスだから、同じ感覚でやったところで、うまくいくわけがないよ。

-急激な事業拡大、経営陣の経験不足など、OYOがつまずいた原因は色々ありそうですが、ビジネスモデル事態に対する評価はどうですか。

A社長 僕は面白いと思っている。特に入居者目線で見た場合、使い勝手はいいよね。家具・家電は最初からついているし、カバン一つで色々なところに住めるわけでしょ。やり方さえ間違わなければ、賃貸ビジネスのスタンダードになることはないにしても、ある程度普及する可能性はあるんじゃないかと思っている。時間さえあれば、自分で一度試してみたいとすら思っている。

B社長 今は、パソコンさえあればどこでも仕事ができる時代。毎日出社しなくてもいいという会社も増えているから、地方を転々としながら仕事をしている若者が増えているようだしね。ある程度の需要はあるだろう。

C社長 私は、そんなに広がらないんじゃないかと思っています。だって、住む場所を転々としながら働ける人は確かに増えているんだろうけれど、それでも全体から見ればごくわずかでしょう。学生入居者は住む場所を転々としながら生活なんてできないだろうし、ファミリーも子供の学校があるからね。利用してみたいという人はたくさんいても、実際に利用できる人は限られているんですよ。

-話をOYOに戻したいと思います。業界内ではネガティブな意見もありますが、みなさんはOYOの今後のついてはどう考えていますか。

B社長 きちんと物件を選別して、借り手の付かなそうなものは返却する。一方で相場とかけ離れた金額で借り上げてしまった物件は、オーナーと交渉して保証額を下げてもらう。これらがうまく進みさえすれば、潰れたりすることはないだろうし、賃貸業界でそれなりの存在感は放てるんじゃないかな。

A社長 サブリース物件の見直しによって選べる数が減ってしまった今の状況を、消費者がどう見ているかが一つの鍵になるんじゃないかな。「色々な物件に住み替えできる」ことを謳っているんだから、ある程度の物件がないと利用者は納得しないだろうしね。

D社長 これはネットで見ただけだからどこまで信憑性があるのか分かりませんが、業績不振に陥っているレオパレス21の買収を検討しているなんて情報もありますね。

C社長 サブリースした物件を運用して利益を上げるビジネスモデルは同じと言えば同じだけど、いくらなんでも問題ありありのレオパレスの物件では借り手が付かないんじゃないのかな。そもそも、施工不良物件の改修工事だって、まだ全部終わっていないんじゃないの?物件は手軽に増やせるかもしれないけど、使えない物件では意味がないでしょ。

B社長 レオパレスの側からすれば、現金資金もだいぶ減っているだろうし、OYOに限らず、どこかが助けてくれると言うのなら、こんなありがたい話はないよね。OYOには、レオパレスから転職者が結構いるって話だから、もしかしたら可能性はゼロではないのかもしれないね。

D社長 OYOは、レオパレスの創業者が別に作ったMDIっていう会社とも資本提携しているし、関係は深そうだからね。ただ、Zホールディングスが手をしまった後で、社会的信用を失って企業価値が低下しているとはいえ、いまなお業界トップクラスの管理物件を有しているレオパレスを買うだけ資金力はあるのかな。不採算のサブリース物件を整理したとはいえ、そもそもサブリースの利ザヤはそんなに大きくない。今の時点では、そんなに利益も出ていないだろう。インドの本社がさらなる資金注入でもしないと、買いたくても買えないんじゃないのかな。

A社長 何にせよ、巨大資本をバックに一気に賃貸市場でトップシェアを取ってやろうという戦略は、稚拙な営業戦略のせいで水泡に帰したわけだ。これからは戦略の転換を余儀なくされるだろうし、OYOに対する見方や評価は厳しくなるだろうね。

C社長 以前のような札束攻勢で物件を増やすこともできなだろうから、これからは地に足を付けたやり方で事業を行っていくしかないよね。

B社長 ただインドの本体がそれを許すかどうか。短期間で急成長した会社なだけに、早期に投資回収できる見込みがないと分かれば、さっさとどこかに売って日本から撤退することもあるかもしれないよね。

-OYOの考えたビジネスモデル自体は、私も非常に面白いと思いました。ただ、C社長がおっしゃったように、短期間で住む場所を転々としたいという人は、それほど多くないように思います。新しいカタチの賃貸ではあるものの、あくまでも第2、第3の選択肢ということになるのではないでしょうか?みなさん、面白い意見をどうもありがとうございました。

(プロフィール)
A社長 50歳。渋谷区、新宿区などで不動産事業を手掛ける。管理戸数は約2000戸。
B社長 横浜を中心に約4000戸を管理する不動産会社社長。他に、中古マンションの仲介やリフォームも。38歳。
C社長 東京都内で賃貸管理・仲介、不動産売買などを行う傍ら、自らマンション経営も手掛ける。48歳。
D社長 分譲マンションの販売を中心に、不動産業務全般を手掛ける。48歳。