真説 賃貸業界史 第3回「日本初のワンルームマンションは今も現存」|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2018.02.12

真説 賃貸業界史 第3回「日本初のワンルームマンションは今も現存」

真説 賃貸業界史 第3回「日本初のワンルームマンションは今も現存」
一世を風靡した不動産会社マルコー

サラリーマン層を中心に人気が高いワンルームマンション。不動産投資の定番というイメージが定着していますが、そのルーツはどこにあるのでしょうか。連載第3回目となる今回は、ワンルームマンション投資の元祖と言われるマルコーについてまとめました。

 東京都新宿区の早稲田大学キャンパスから歩いて3分の場所にある「メゾン・ド・早稲田」というマンションをご存知でしょうか?建物の側面は石材調のサイディングが貼ってあり、一見すると洋風の建物です。しかし、よく見ると屋上には青い瓦屋根が乗せられていて、ベランダの手すりは相当年季が入っています。実はこれこそが、日本初のワンルームマンションと言われている建物なのです。竣工年は1977年。鉄筋コンクリート造5階建てで、総戸数は27戸。部屋の広さはわずか13.52㎡~15.85㎡しかありません。建てられてから40年以上が経過した現在も現役で、大学キャンパスからすぐの立地も手伝い、共益費込みで5万円台後半の家賃で賃貸されているそうです。
 さて、ワンルームマンションと言えば、不動産投資を初めてやるという方に特に人気の高い商品ですが、これを世のなかに定着させた会社として忘れてはならないのがマルコーです。マルコーは金澤尚史氏が創業した投資用ワンルームマンションの開発会社で、1980年代のバブル期に急成長しました。先述した「メゾン・ド・早稲田」は、このマルコーが開発した最初のワンルームマンションで、当時、戸当たり600万円で販売されたそうです。当時の家賃は4万円でしたので、表面利回りは8%程度。現在の新築ワンルームよりは若干、高い利回りだったようです。
 バブル期は、今日買った土地が明日には1割増しで売れた時代です。ワンルームマンションも例外ではなく、一時期は1年で値段が1.5倍にまで跳ね上がったものもあったそうです。さらに当時は、今よりも圧倒的に有利な条件で物件を貸し出すことができました。敷金として預かった家賃10ヶ月分相当のお金から、8カ月分を敷引きすることができましたし、退去の度に家賃を上げることもできました。転売するよりも持っていた方が家主業は儲かったのです。だからワンルームマンションは次から次に、飛ぶように売れました。当時、ある不動産会社で販売営業をされていた方は、「電話一本で契約が取れることも珍しくなかった」と言います。
マルコーのワンルームマンションがよく売れたのは、バブルの追い風を受けたからだけではありません。とりわけ高く評価されていたのは、今でこそ当たり前の、家賃保証と賃貸管理が一体となったビジネスモデルと、グループ会社2社(エムジー:建物管理・大規模修繕、マイム:賃貸管理)と連携したサポートシステムをいち早く確立していたためです。
 しかし、政府が下した非情とも思える総量規制に、マルコーも抗うことはできませんでした。バブル崩壊後の91年、マルコーは会社更生法の適用を申請。94年からダイエーの再建支援を受け、2001年に当初計画より3年早く更生手続きを集結させました。しかし、残念ながらマルコーはその後も運命に翻弄され続けました。
02年、マルコーはベンチャーキャピタルから資金を調達してMBOを実施。経営不振に陥っていたダイエーから自社株式を買い取って、会社名をダーウィンと改め、再スタートを切りました。ところがそれも束の間、わずか2年後にインボイスに買収され、インボイスRMと再び社名を改めました。さらに、08年、今度はそのインボイスが経営不振に陥ると、インボイスRMはアパマンショップホールディングスに売却されてしまいました。現在は、アパマンショップサブリースとして活動しています。
 また、エムジーは06年、大規模修繕事業をいったん切り離したものの、2年後に再び事業に加え、現在はMGファシリティーズに商号を変更して活動しています。マイムはマルコーがインボイスの子会社になった際に、インボイスMYMと社名を変更。その後、インボイスRMとともにアパマンショップホールディングスの傘下となりましたが、現在は東証2部のビケンテクノグループに入り、マイムコミュニティーとして活動しています。
 バブル期、時代の波に乗って急成長した不動産会社は数多くありました。しかし、そのほとんどはバブル崩壊とともに瞬く間に業績を悪化させ、短い歴史に幕を下ろしました。しかしワンルームマンションの元祖と言われるマルコーだけは、当時と経営母体や事業内容は変わってしまったものの、脈々とその血を受け継ぎ、今なお残っていることに歴史の妙を感じます。