法律最先端PART1~「大同生命ビル不動産事件」が及ぼす社会的問題とは①~|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2017.12.25

法律最先端PART1~「大同生命ビル不動産事件」が及ぼす社会的問題とは①~

法律最先端PART1~「大同生命ビル不動産事件」が及ぼす社会的問題とは①~
現状有姿の意味を問い、大手保険会社との争いが勃発

 2017年8月 不動産業界に激震が走った。それは、大同生命保険株式会社(以下、大同生命)が、一般ビルオーナーに送った通知書の内容が、今までの不動産業界の常識を覆すものだったからだ。あまりにも衝撃の大きいニュースだっただけに、すでに知っている人も多いかも知れない。今回は、法律が変わるかもしれないニュースについて細かく解説していく。
 何故、この問題を不動産業界が今、注目しているのか!それは、もし新しい法律ができるようなことがあれば、その時点で全国のビル・マンションオーナーは、明日から隠れ負債を抱え込むことになるからだ。また、不動産仲介会社も、売却したオーナーから訴えられる事態に発展するかもしれない。全国を巻き込む可能性がある問題を解説していく。

 内容はこうだ。通知書には、売却した不動産の案内板について

『本標章と同一の標章を表示しています。本標章の表示により、本件建物は大同生命が管理・運営している建物であるかのごとき外観となっておりますが、本標章の仕様について、大同生命が貴社に対して承諾をした事実はありません~貴社が本書面受領後2週間以内に、本標章の使用を停止し、看板等からの表示を抹消しない場合は、既に当職らからの本書面の送付に先立ち、大同生命が貴社に対して、本標章の使用の停止を要請したにも関わらず、現在までこれに応じて頂けないという経緯に照らして、直ちに商標権侵害についての差し止め等を請求するべく、訴訟と提起いたします。』

という内容が書かれていた。

今までの経緯を整理する。
①大同生命の売買期日は、平成15年2月20日 今から約15年も昔のことである
②約15年間の間に所有権は、5社(法人)変わっている
③当初の売買契約書は、現状有姿で売買し商標の付いた看板も一緒に販売している
④現所有は、看板として利用しているだけで、大同生命と言う標章を新たに作ったり、利用をしていない
⑤大同生命は、売却当時の契約書に看板名義変更や撤去等の特約記載を入れ忘れている

何故、この問題が不動産業界に激震を与えているのか?

 マンションデベロッパーや不動産業者などは、自社で企画したマンションに、ロゴを入れたり、会社名やシリーズのブランド名を入れて販売することが多い。
 また、新築でなくても、誰かが所有していたビルを購入した場合、以前の持ち主の会社名などが外壁や看板に入ったままの状態なのは、よくある話だ。
 なぜならば、建物名の変更は、単に売主と買主の問題だけでなく、そこに入居しているテナントさんからすれば、名刺や封筒、パンフレット・HP・地図…といったものまで変更の手続きを行う必要が発生し、経済的な負担が発生する。
 また、ビルオーナーによっては、「物件名が変わるのであれば退去する」と言われて、そのまま以前のままのビル名を使っていることが多い。
 一方で売り主も、こうした借主や買主の経済的リスクを減らし、費用や手間を掛けさせないようにすることで、物件を高く売却できるというメリットを得ている。
 
これらの事情から、一般的には【現状有姿】での売却が多い。

※現状有姿とは、
「今あるそのままの状態で」を意味する。不動産取引でよく使われる用語で、現状有姿取引と言ったら、普通その物件に何らかの損傷があっても改修せず、契約時のままの状態で引き渡すことを意味する。



 今回のケースでは、大同生命は、自社の会社名が入ったままの状態で物件を売却した。それを約15年経ってから、「看板の標章の使用を削除しろ」と言ってきているわけだ。現所有者が、なぜ今になってと驚くのも無理はないだろう。
 一般的に、ビルやマンションなどの外壁には、大きくデベロッパーのブランド名などがタイルや塗装でデザインされていることが多い。もし、大同生命の要求が通るのであれば、これらを購入したビル・マンションオーナーはみんな、外壁のタイルを削ったり、看板を上から塗装して標章を消さなければならなくなる。それらの改修にかかる経済的負担は膨大になるだろう。全国にある何万というビルやマンションに隠れ負債が発生すると言ったのは、こうした理由からだ。

今回の契約のポイントを考える。

①看板も含めた代金で売却しているのに、その看板を棄損させることはできるのか?

当然、看板の修繕や新しく作るのには、さまざまな費用が発生するが、大同生命はそれらの費用については負担しないと言っている。ただし、現所有者は、金銭的な請求はしていない。このままの状態を気に入って買っているのだから、このまま利用したいと言う。

②現状有姿で売却しているのに、看板の標章を変えろというのは、当初の契約違反にはならないのか?

一般的には現状有姿と言うのは、そこにある看板や付随建物なども含めた売却であり、双方が売却後に瑕疵等があっても問題にしないという契約である。今回の場合、大同生命は現状の看板の状況も含めて売却している。

③売買時に標章変更を求める場合は、重要事項説明事項として説明する必要がある

なぜならば、変更や処分を行う際は、そこに費用負担が発生するからだ。よって一般的には、特約に『売却後3ヶ月以内に、売主の屋上看板は撤去することとする。その費用負担は買主が負担する』といった内容を盛り込む。

④不動産契約において、売却したものを売却した状態で使えないという事は、売主は何を売却したのかという疑問が残る

ビルにとって看板は当然付随物であり、必要不可欠なものである。一般的に看板の立体文字の製作にも費用が掛かかる。大同生命は、そのような看板の代替え費用も一切負担しないと言っている。

【ここが今回の一番の問題点】
この費用を買主が負担するのであれば、当然購入した金額からそれにかかる費用分を差し引いた想定金額で購入するべきであるので、もしも今回、大同生命の言う通り削除ということになるのであれば、その撤去費用・修繕費用・新しい看板の設置費用などは、誰が負担することになるのだろうか?

責任1 不動産仲介会社
売買時に撤去を条件とすることが分かっているのであれば、仲介会社は契約書にも重要事項説明書にも書かなければならない。これを記入していない時点で仲介会社にも過失の可能性が出てくる。初期の仲介会社に確認を取ったところ、現状の大同生命の標章を使っても良いと確認を取って、現状有姿の文言を入れてもらったということだった。

責任2 大同生命(売主)
現状有姿で販売している。それが後になって削除を要求するということは、そもそもの原因を作っているのは売主であるということになる。普通であれば、売却した時点で看板変更を求めるところであるが、現在売却してから、所有者も5回変わり、約15年もの歳月が経過している。従って、当初から変更を求めていたとは考えにくい。

責任3 一般ビルオーナー(買主)
オーナーは、看板等は当時のままで、新たに大同生命という名前を使って看板を制作したり、他社にアピールするような標章を利用していない。現に買主は大同生命に、看板を書き換えるのも構わないが、それに伴う費用は負担して欲しいと言っている事実がある。大同生命は、撤去はするが、それらの補修等の費用負担はしないと言っている。買主は、現状有姿ではなく、看板撤去が前提条件であれば、隠して売却した大同生命はその分高く売却しているので、最低限の掛かる費用負担だけはして欲しいと通知している。

オーナー本人にお話を伺ったところ、

「降って湧いたような話に驚いています。今回新しい判例が出てしまうと、全国のビル・マンションオーナーさんにもご迷惑が掛かってしまうと思い、最高裁までの費用を負担してでも裁判をしたい」

ということ。現在、この話を聞きつけた全国のビル・マンションオーナーから多くの応援メッセージが寄せられ、テレビ局などからも取材依頼が届いているとそうだ。

実際、他のビルオーナーにも話を伺った。

「自分で問題の種を蒔きながら、後で請求をするようなやり方は、大手だから許されるものではない。一個人では弱い立場ではあると思うが、全国の賃貸オーナーのためにも頑張ってほしい」

 これは、売買に関わった仲介会社、そしてその間の所有者、大同生命保険といった多くの関係者を巻き込む大きな問題である。新しい判例ができるのか?現状有姿の意味が守られるのか?全国の不動産会社、ビル・マンションオーナーが注目するこの裁判は、随時、住生活新聞にて経過をお伝えしていきます。

登記簿謄本 詳細
所有権保存 平成15年2月20日 所有権保存 大同生命保険株式会社 
(建物)  平成15年4月16日 所有権移転 A社 特定目的会社
      平成15年7月29日 所有権移転 B社
      平成21年7月21日 所有権移転 C社
      平成22年8月23日 所有権移転 D社
      平成27年10月7日 所有権移転 E社 現在に至る
土地は、昭和47年6月30日より大同生命保険相互会社が、所有権移転登記をしている。