空き家率全国ワースト1位 山梨県の再生に学ぶ|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2017.02.07

空き家率全国ワースト1位 山梨県の再生に学ぶ

空き家率全国ワースト1位 山梨県の再生に学ぶ
2016年10月に発表された国勢調査(2015年実施)の結果から東京都への人口集中が顕著となったが、その東京都でさえ郊外の市部では人口減少が起きていることがわかった。
 東京都だけでみると23区と隣接する市部を除けば、国立市、立川市、多摩市、昭島市、青梅市、福生市、東村山市で人口が減少。神奈川県でも鎌倉市、平塚市、横須賀市などで人口の減少をみた。かつて国立市や鎌倉市といえば憧れの高級住宅地であったはずだ。
 過去10年間における人口の増減をコーホート(特定の期間に出生や結婚などを経験した集団)で分析すると、全国平均では20歳から33歳まで各歳2万人以上減少している一方、東京23区に限ってみると各歳2万人以上増加していることがわかる。
 前回2010年の国勢調査結果と比べ東京都では35・6万人の増加。そのうちの約9割強にあたる32・7万人が23区に集中していたのだ。
 この現象は地方の若者が都市圏に流入するという従来の傾向だけが原因ではない。高度経済成長期にベッドタウンとして発展した首都圏郊外から、より都心へと若者が流入していることも大きく影響している。
空き家率全国ワースト1位 山梨県の再生に学ぶ
そこで今回は東京のベッドタウンと地方都市の両面を併せ持ち、空き家率全国ワースト1位の山梨県に取材して高齢化、過疎化、さらに若者たちによる地方再生への取り組みを探ってみた。
 山梨県の人口は約83万人(2016年10月現在)。面積のおよそ8割が山岳地のため可住地面積は全国45位(単純面積全国32位)で東京都、神奈川県、埼玉県、長野県、静岡県と隣接している。
 富士山や八ヶ岳、甲斐駒ケ岳などに囲まれミネラルウォーターの生産量は日本の総生産量の40%を占め、甲府盆地東部の勝沼市、笛吹市などは全国的にも有名な果物生産地で特産品の葡萄を使ったワイン作りも盛んだ。
 県庁所在地の甲府市は人口約19万人。市内中央の商店街もバブル期前後は大変な賑わいで、すれ違うにも肩のぶつからない日はなかったというが、いまはシャッター通りとなり年末年始の繁忙期でも閑散としている。
 甲州商人は歴史的にも名高く明治維新後には鉄道王、百貨店王など日本産業界を牽引した逸材を多く輩出しているが、地元に近代基幹産業の生まれることはなかった。従来から工業の立ち遅れていた山梨県は、主要産業である農業の従事者も減少の一途をたどるいま、中核市甲府の衰退は地元住民も溜息をつくほど深刻だ。
 高速道路やバイパスの整備と工業団地誘致から住宅地も周辺市へと広がり、さらに郊外型大型商業施設の進出でドーナツ現象が起き、甲府市は取り残されてしまった。
 一方、甲府市と隣接する昭和町は積極的な地域活性化政策で黒字財政となり、市町村合併に頼らず独自の発展を遂げているモデルケースで、青息吐息の甲府市とはまったく対照的だ。
空き家率全国ワースト1位 山梨県の再生に学ぶ
しかし近年、第三次産業で甲府経済に刺激を与える若者が増えているという。30代前半から40代後半の団塊ジュニア世代で、いわゆるUターン、Iターンの若者たちだ。彼らはシャッター通りや裏路地の小規模店舗をリフォームし、地元住民や観光客が集う飲食店を経営している。都心に比べはるかに家賃が安いことも起業を後押しする大きな要因だ。
 こうした若者たちが山梨県の血液循環に貢献している例は他にもある。韮崎市や甲州市など第一次産業が基幹でありながら、農業従事者の高齢化と後継者不足による過疎化に悩む地域では、空き家となっている古民家を無料もしくは破格値で若い世代に貸し、若い世代は一人暮らしや身体の不自由な高齢者に労働力を提供するという試みだ。
 具体的にいうと空き家を提供された若者たちは農作業の手伝いから買い物、電球の交換まで、いわば便利屋としての役割を果たす。祭礼などにも積極的に参加する。
 遊休地となっている田畑を無償で借り、本格的に農業に参入する若者もいる。遊休地は土が瘦せてしまうから貸し手にもメリットはある。しかも農業指導まで受けられる借り手には一石二鳥だ。
 さらに上水道を井戸水でまかなっている古民家では、わずかな電気代とガス代、下水道代のランニングコストですむ。手間暇を惜しまなければ炊事と風呂が薪という物件もあり、地域住民との交流が深まれば採れたての新鮮野菜や果物、惣菜のお裾分けもあるから生活費がほとんどかからない。
 また、リフォームされた物件も少なくない。炊事も風呂も薪でかまわないがトイレだけは水洗を希望する若者がいるからだ。洋式トイレで育った世代に和式の汲み取りトイレはやはり抵抗があるらしい。
 だが、こうした空き家の持ち主が山梨県在住でないケースもある。元の家主が他界し、物件を相続した親族が都内に在住しており、転売するにも買い手がつかず空き家のまま放置しておくのは危険という場合だ。無人の家屋はかえっていたみやすく、防犯と防災のためにもそのままではリスクが高い。将来的に終の棲家として戻ることや孫子に別荘として残したいと考える人が、中長期的に管理人として若者を住まわせるのだ。目新しい資産管理のあり方ではないが、核家族化と少子高齢化が加速度的に進行する時代にあって、今後は選択肢の主流になる可能性は大きい。
 現段階ではムーブメントといえるほどの潮流ではないが、繁華街で飲食店を経営する若者が郊外の若者の生産した農作物を食材に仕入れ、郊外の若者がその飲食店の常連になる血液循環も確実に起こりはじめている。

 多くの若者たちが都心を目指す一方でスローライフ志向の若者も増加傾向にある昨今、空き家率全国ワースト1位の山梨県から、若者たちによる新しいビジネスモデルが生まれるかもしれない。