リフォームビジネス最前線~業務用空調の世界~|リフォーム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2022.04.11

リフォームビジネス最前線~業務用空調の世界~

リフォームビジネス最前線~業務用空調の世界~
「空調環境」の改善が、顧客との信頼関係を築く第一歩

 住宅専門のリフォーム会社にとってあまり馴染みのない業務用空調設備。同じ空調でも、住宅用とは設置方法等がまるっきり異なるため取り扱いにくいイメージがあるが、うまくやればビルや店舗といった新たな顧客開拓のツールにもなりえる存在だ。今回は多数の施工実績を持つファーム(東京都豊島区)の石井保社長に、業務用空調設備の業界事情などについて聞いた。

-業務用空調設備を専門的に取り扱っておられます。一体、どんな市場なのでしょうか。

石井 世の中には数多くのビルや商業施設がありますが、空調設備がないところはまずありません。その意味では、成熟した市場だと言えるとでしょう。では、我々はどこでビジネスをしているのかというと、既築の建物の「更新」です。「更新」とは、故障や老朽化に伴う空調設備の交換のことで、どんな建物でもどこかのタイミングで必ず行われます。我々はここをターゲットに営業活動をしています。特に多いのは20年、25年前に建てられたビルで、中には竣工してから一度も空調のメンテナンスがされていない建物も結構あります。

-新しい空調設備を設置するという意味では、新築と既存で作業内容にそれほど大きな違いはないように感じます。

石井 実際にはまったく違います。新築の場合は基本的に、ゼネコンからの発注に従い、指示の通りに空調設備を設置して終わりです。基本的には1棟単位で仕事を請け負っていくので納入する数は多いです。大きなビルだと、100台を平気で超えることもあると思います。一方で既存の建物の場合は、ビルオーナーや管理会社に営業することももちろんありますが、多くの場合、入居している企業や飲食店、小売店など、テナント単位から仕事をもらうことがほとんどです。だから現場数は多くても、新築のようにまとまった数を受注できるわけではありません。非常に手間はかかりますが、お客様から直接感謝の言葉をかけてもらえる分、やり甲斐は新築よりもあると思います。

-新築にはない、ビジネス的なメリットもいくつかあるそうでうね。

石井 一番のメリットは、顧客と信頼関係を築くことで、定期的に仕事をもらえるようになることです。空調設備のリース期間は基本的に7年です。つまり、7年経てばまた「更新」のタイミングがやってくるわけです。取引先をたくさん作れば、既存客だけでも安定的な売り上げを上げることができます。収益基盤がしっかりしていれば、新規の営業活動もしやすくなります。

-空調設備の「更新」営業はどのように行うのでしょうか。

石井 まず大事なのは、いかにしてお客様に話を聞いてもらうかです。今は何と言っても、省エネを切り口にするのが一番だと思います。特にこれから夏場にかけては、エアコンを使う頻度がどんどん増えていきます。当然、それに伴い光熱費も上がっていくわけですから、「電気代を安くしてみませんか?」と言えば、誰もが興味を示してくれます。ただし、ここでただ電気代を安くする提案だけをしたのでは意味がありません。リピート客になってもらうためには、さらにもうワンランク上の提案をしてあげる必要があります。

-具体的にはどんなことを提案するのでしょうか。

石井 室内の空気の流れは、什器類のレイアウトやパーティションの配置などによって大きく変わります。中には、空調設備がまったく見当違いの場所に取り付けられていて、空気の流れが悪くなっているケースもあります。我々のような「更新」を手掛ける業者は、そういった現場ごとの改善点を即座に見極めて、空調環境がベストな状態になる提案をしてあげなければなりません。そこまでしてあげなければ、次の「更新」が来た際にお客様は“さらに価格の安い業者”に流れてしまいます。逆に空調環境を改善してあげることができれば、お客様は価格面だけでなく、技術的な部分でも評価してくれます。もちろん、これにはそれなりのノウハウが必要になりますが、しっかり経験を積めば必ず身に付けることができます。

-提案力がない業者は、価格競争に巻き込まれやすいというわけですね。
 
石井 そういう側面は大いにあると思います。実際、我々も他社に比べて価格が安いわけではありません。それにもかかわらず、年間で約2000件もの仕事を頂けているのは、技術力を評価してもらえているからだと思っています。

-これから夏場にかけて、業界は繁忙期を迎えると聞きました。

石井 どんなに忙しくても、お客様に対してはスピーディーに対応しなければなりません。忙しさや空調設備の在庫切れなどを理由に、工事を2週間後、ひと月後に先延ばししていては、お客様は他の業者に流れてしまいます。在庫を安定的に確保できるように、普段からメーカーとしっかり連携しておくことも大切です。

 住宅専門のリフォーム会社には普段あまり馴染みのない業務用空調の業界だが、やり方次第では参入も不可能ではなさそうだ。事業の領域を広げる意味でも、チャレンジしてみるのも面白いかもしれない。